My Serbia(マイセルビア)

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『イェレナと学ぶセルビア料理』〜イェレナ・イェレミッチさんのこと〜

【文/古賀 亜希子】

日本初のセルビア料理の本『イェレナと学ぶセルビア料理』(2018年/ぶなのもり)。今日は、著者であるイェレナさんと、この本のことをお話したいと思います。

私がイェレナさんに出会ったのは、2016年。お互いに日本でセルビアの文化を紹介しているとのことで、共通の友人たちが私たちを引き合わせてくれたのが始まりです。

イェレナさんは、当時麻布の自宅で、料理教室を開いていました。料理の人気講師だと聞いていたので、どんなお母さんが来るのかなと思っていたら、若くておしゃれで、とにかく明るく元気でチャーミングな女性でした。料理教室が人気なのも、納得です! そして、イェレナさんは、バルカン半島を巡るクッキングツアーを自主企画したり、民族舞踊の指導をしたりと、多才な女性でもありました。私たちはすぐに意気投合して、イェレナさんの夢である「料理の本」を出版するべく、一緒に準備をすることになりました。

「国境なんて、私たちが頭の中で引いた、想像上の線にすぎない。」私が東京・麻布の料理教室でバルカンの食文化を説明するとき、かならず生徒さんに言っていたことです。

P12「The country’s culture as a rainbow〜文化は虹のように変化していくもの〜」より
料理教室の様子

それはもちろん簡単なことではありませんでした。出版の経験がない私たちは、たくさんの方に支えられながら……本当に多くの方々の応援があって、愛に溢れた美しい本を仕上げることができました。イェレナさんの本は、おばあさんから受け継いだ大事なレシピのほかに、その料理にまつわるエピソード、自身の素敵な思い出、祖国の歴史などが垣間見れる心温まる一冊です。レシピは、それぞれテーマごとに、スープ、サラダ、メイン、デザートと料理をコースで楽しめる作りになっています。中には、「ティトー大統領のディナー」「天才テスラの食事の秘密」など、興味深いテーマも含まれ、イェレナさんの知識の深さと好奇心の強さが感じられます。セルビア料理のレシピを知りたい、というだけでなく、セルビアのことをもっと知りたいという方にも、ぜひ手にとってほしいと思います。

祖母は世界でいちばんおいしいチキンスープを作ります。私はいつも「おかわり!」と言って、祖母はそのたびに胸を傷めていたそうです。「将来、いったいこの子にどんなダイエットをさせたらいいのかしら」と。祖母は、健康的な料理ーたくさんの野菜、牛乳、自家製ヨーグルトを使った料理を作ってくれました。祖母の料理は、本当においしいのです! そして、私にとってキッチンは、みんなをひとつのテーブルに集めることができる魔法のような場所でした。

そんなおばあちゃんの口癖は「The health comes from the spoon〜スプーンが健康を連れてくる」。人が健康であるためには、何より家庭料理が大事だという意味です。この言葉は祖母が亡くなった後も、私のポリシーとしてずっと心に留めておます。

P2「スプーンが健康を連れてくる」より

イェレナさんは、現在セルビアに住んでいます。日本で料理教室を開いたり、イベントをしたりする機会は減ってしまいましたが、また必ずみなさんとお会いする日がくるでしょう。その日を楽しみに待ちましょう!

レンカおばあちゃんは、私が子どもの頃、よくクレープを焼いてくれました。私もお手伝いが楽しみでした。彼女は立って(年を取ってからはストープのそばに座って)黒い鉄のフライパンを握ります。紫のバラがデザインされた小さなコーヒーカップ、大きな黄色いパンケーキのボウルにおたま、暖かいストーブと私たち2人のおしゃべり。毎日のこと、結婚のこと、お父さん、お母さんのこと、ボーイフレンドのこと、人生のこと…。

P61「パラチンケ(セルビアのクレープ)」より
2020年1月にTSUTAYA BOOKSTORE 渋谷スクランブルスクエアで開催されたセルビアフェアにて。

【文/古賀 亜希子】写真家。成城大学芸術学科を卒業後、東京綜合写真専門学校にて写真を学ぶ。国内外で作品を発表。2009年、ベオグラードでの個展開催をきっかけにセルビアが大好きになり、セルビアと日本の文化交流展覧会を多数企画。イェレナ・イェレミッチ著『イェレナと学ぶセルビア料理』の企画・翻訳に携わるなど、 最近は専らセルビア料理を研究中!

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