【文/嶋田 紗千】
ユネスコ無形文化遺産にセルビアの「ズラクサ焼」が登録されました。
「ズラクサ焼」とは、セルビア中部(ウジツェとポジェガの間)にあるズラクサ村に伝わる素焼きの焼き物(主に土鍋など)のことです。近郊で採れるグニィラという粘土と方解石を混ぜて練ったものを轆轤(ロクロ)で一つ一つ丁寧に成形し、模様をつけて焼きます。窯ではなく、直火で焼くところが特徴です。粘土と方解石の性質によって大きくて丈夫な土鍋を作ることをできます。
「ズラクサ焼」のルーツは3-4世紀ともいわれ、時代を超えて受け継がれてきた技術をズラクサ村の人々が守り続けてきました。大量生産が一般的な時代でもそれは変わらず、一点一点手で作りあげています。
大勢の客を招く祝宴などで、ズラクサ焼の土鍋は煮込み料理を作るのに多用されます。都会のマンションのお宅では見たことはないですが、広いお庭のある大家族のお宅などではたまに使われているのを目にします。ズラティボール地方など郊外へ赴くと、道端で屋台を広げて販売されています。
セルビアのユネスコ無形文化遺産は、これで4つ目になります。2014年にスラヴァ(家庭の守護聖人を祝う風習)、2017年コロ(フォークダンス)、2018年にグスレの伴奏による歌唱(グスレという弦楽器を弾きながら叙事詩などを歌う伝統。日本でいう琵琶法師のようなもの)が登録されています。
【文/嶋田 紗千(Sachi Shimada)】美術史家。岡山大学大学院在学中にベオグラード大学哲学部美術史学科へ3年間留学。帰国後、群馬県立近代美術館、世田谷美術館などで学芸員を務め、現在、実践女子大学非常勤講師。専門は東欧美術史、特にセルビア中世美術史。『中欧・東欧文化事典』丸善出版(2021年7月発行予定)に執筆。フレスコ画の調査で山の中の修道院へ行くことが多いため、ヒッチハイクがセルビアで上達した。