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セルビア滞在 〜フレスコ画修復プロジェクト2021〜

【文/嶋田 紗千】

セルビアに来て、2ヶ月が経ちます。今回の滞在は13世紀のフレスコ画を修復するため(経緯についてはこちら)、セルビア科学芸術アカデミーの美術史委員会に滞在証明書を発行してもらいました。

私は美術史が専門なので、修復工程をすべて見学するのは初めてです。聖堂や修道院での調査は、一日か数日滞在するのみなので、修復の現場を見学させてもらったことはありますが、これほど長く滞在したことはありません。

最初の1ヶ月はベオグラードで隔離生活とワクチン接種を行い、9月からノヴィ・パザルのジュルジェヴィ・ストゥポヴィ修道院に滞在し、フレスコ画の洗浄及び修復作業工程を見学しています。

修復家のドラガンさんが率いるメンバーが日々細かい作業を行ってくれています。最初に行ったことは、足場組みのための清掃、そして業者さんが足場を組むと、フレスコ画を掃除機でお掃除(!?)。埃や蜘蛛の巣などを取り除くのにはちょっとびっくりしました。想像以上にフレスコ画は丈夫でした。

修復中のジュルジェヴィ・ストゥポヴィ修道院ドラグティン王礼拝堂

足場の上に乗ると、フレスコ画がとても近くで見られます。一見平らに見える壁でも少し起伏しているのが分かります。また以前に破損部分をモルタルで補強し、着色したところもよく見えるので、13世紀に描かれた状態をよりリアルに感じることができます。

洗浄・修復作業は4名の修復家がさまざまな作業を同時に行います。上で塩分除去をしながら、下で小さい剥落部分をモルタルで補充、隆起した壁の裏側に薄めたモルタルを流し込み、以前に修復した時のモルタルの除去作業などが並行して進められます。

年齢もキャリアも違う修復家たちのやり取りがとても興味深いです。ベテラン同士の相談、中堅の意見を聞くベテラン、ベテランから若手への指導など日々の会話を傍らで聞いているのが楽しいです。こうやって現場経験を積んで成長されることに逞しさを感じます。

修復家の親方ドラガンさん(左上)、リュバさん(左下)、アレクさん(右上)、ウロシュさん(右下)

私は、修道院内の客人用コナック(寄宿舎)に滞在しています。ほぼ毎朝聖堂でリトゥルギー(奉神礼、一般的には典礼)が行われます。鐘の音色、振り香炉の鈴の音と乳香の香り、司祭様のお祈りと聖歌隊とのコラボレーション、そして朝陽の輝きはとても美しく、日々微妙に変わるので、毎朝が一期一会です。

リトゥルギーが終わると、コーヒーを飲む時間があります。修道士さんや司祭さんたちは意外と気さくで、さまざまなお話を伺うことができます。この地域の歴史や文化、セルビア正教会のニュース、修道院経営など雑談を交えて話してくださいます。日本語に興味をもってくださり、挨拶や宗教用語を尋ねられます。最近は挨拶が日本語になっています。とても親切な方々です。

修道士ダヴィッドさん(左)、修道司祭ガヴリロさん(右下)、リトゥルギーの様子(右上)

修道院は自然に囲まれた丘の上にあるため、トカゲやリス、野ウサギを見ることができます。先日は放牧されている羊の群れに遭遇しました。眼下の町々や山々と共に朝陽や夕日を眺めることができます。とても静かでこの世の喧騒とは無縁の世界にいるかのようです。

※「ジュルジェヴィ・ストゥポヴィ修道院ドラグティン王礼拝堂(セルビア)壁画修復」プロジェクトへご助成くださった在大阪セルビア共和国名誉総領事館(大日本除虫菊株式会社内)、そして住友財団に深く感謝いたします。


【文/嶋田紗千(Sachi Shimada)】美術史家。岡山大学大学院在学中にベオグラード大学哲学部美術史学科へ3年間留学。帰国後、群馬県立近代美術館、世田谷美術館などで学芸員を務め、現在、実践女子大学非常勤講師。専門は東欧美術史、特にセルビア中世美術史。『中欧・東欧文化事典』(丸善出版)に執筆。フレスコ画の調査で山の中の修道院へ行くことが多いため、ヒッチハイクがセルビアで上達した。

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