【構成/My Serbia】
2022年は「セルビアと日本の友好140周年」という記念の年で、両国で文化交流イベントや講演会等の祝賀行事が多く開催されました。My Serbiaは一年の締めくくりとしてセルビア共和国大使館(東京都港区)のアレクサンドラ・コヴァチュ特命全権大使にインタビューを実施。東京オリンピック・パラリンピックの開幕直前に来日してから大使としての約一年半の外交活動を振り返っていただくとともに、東京での私生活やセルビアの魅力についても語っていただきました。
東京の生活はダイナミックでワクワク
ーー2021年夏に大使として来日してから一年半が過ぎました。現在の日本の印象を教えてください。また、大使は2006年から4年間、駐日セルビア大使館で書記官として勤められていました。その時と何か変化を感じますか?
日本がある意味、自分たちに忠実であったことが嬉しかったです。2021年の夏季オリンピック大会に向けた東京の街の変貌は、新しい駅などの目新しさだけではなく、渋谷や原宿といった街の一部に新しい精神をもたらしたことに気づきました。昨今の世界情勢が高齢者やシングルマザーやシングルファーザー、失業者をはじめとする市民の生活水準に悪影響を与えることは心配ですが、子供の遊び場で父親を見かけることが多くなったのは喜ばしいことだと思っています。
ーー東京での生活はいかがですか? お気に入りの休日の過ごし方や好きな日本食を教えてください
東京での生活は、さまざまな困難があるにせよ、とてもダイナミックで、いつもワクワクさせられます。私は、余暇に自転車で街を散策したり、カフェや地元の町並みを訪ねたりするのが好きなのです。日本料理は実に多様で、どれかひとつに絞るのは難しいのですが、私はいわゆる「おふくろの味」が好きなので、毎週、地元の産物や食材を使った自慢の日本料理を出す近所のレストランに通っています。
ーー大使の着こなしはいつも素敵です。ファッションへのこだわりやセルビアのおすすめブランドがあれば教えてください
セルビアには才能あるファッションデザイナーがおり、中にはロクサンダ・イリンチッチ(Roksanda Ilinčić)のように世界的に有名なデザイナーも輩出しています。私もセルビア大使として、自分の外見を通してこの国の良さをアピールするように心がけています。もし、セルビアの伝統的な服にモダンなディテールを加えたものに興味がおありなら、ぜひブティック「Opančareva kći」を訪れてほしいと思います。コンテンポラリーファッションなら、街の中心部にある「Lalica」のような、ヨーロッパでキャリアを積んでいるセルビア人デザイナーも面白い選択肢になるかと思います。
セルビアと日本の友好関係は時を経て市民間へと発展
ーー2022年はセルビアと日本の友好140周年という記念すべき年でした。1882年にセルビアのミラン・オブレノヴィッチ国王と日本の明治天皇との間で初めて親書が交わされて両国の友好関係が始まりました。両国が築き上げた伝統的な関係をどのように見ていますか?
地理的に遠く離れたこの2つの国の間にこれほど長い関係があることは、実に珍しい現象です。特にそれ以前から両国民の間に特別なつながりがあった訳でもないのですから。まさに、時のセルビア国王の持っていたビジョンと、そして日本の天皇陛下にセルビアを友人として受け入れるご意思があったからこそ、今年、この貴重な記念すべき年を迎えることができたのです。この関係は時を経て文通から協力関係へと発展し、その後、市民の生活に関わるほぼすべての領域で繁栄していくことになりました。
ーー140周年を記念して、セルビア大使館ではさまざまな取り組みをされていました。その中でも心に残ったイベントや出来事などあれば教えてください
多くの日本の友人や関係者がその成功に関わったので、1つだけ自分の好きな出来事を挙げるのはあまり良くないかもしれません。しかし個人的には、今年の両国関係の祝賀にあたって、大使館に絵画を寄贈してくださった画家の岡部紫龍さんとの温かい友情が、いつまでも私の記憶に残ることになると思います。ほかには、安倍元首相の昭恵夫人や私の友人でもある明石康氏を大使館にお招きして、それぞれ勲章伝達式を執り行ったことも印象的な出来事でした。
私たちセルビア人は「道の真ん中に立つ家」に住んでいる
ーーセルビア大使館のTwitterは大使の精力的な活動を発信しています。女性大使としても注目をされる機会が多いと思いますが、どのように感じていますか? セルビアでは女性の活躍が目まぐるしく、セルビアと日本の差はどこにあると思いますか?
日本では、セルビアが若い世代に属すると思われる女性の大使を派遣していることに、多くの人々、特に女性たちが驚きますが、私はいつも、セルビアから世界に派遣されている同僚の女性大使2人は私よりも若いと言っています。しかし、私や他の国からの駐日女性大使の存在は、日本の若い女性たちに向けて、キャリアと家庭を同時に実現することは可能であり、日本にも外交における女性の持つ可能性を認識するチャンスがある、という希望を与えているように思います。私は、日本における伝統的な性区分の認識は、家族に関する法律から政治、経済、文化、社会全体に至るまで、さまざまな分野で強く根付いており、そのことからも女性の目指すべき理想を変えるためには包括的なアプローチが必要だと考えています。セルビアも家父長制の文化的背景を持つ国ではありますが、女性の地位を改善する政治的原則やヨーロッパの価値観を統合して久しいのです。
ーー今後のセルビアと日本の関係で期待することはなんでしょうか?
私たちの友情に深く浸透している「連帯」の精神が、将来迎えるかもしれない挑戦の時期においても、力強く存在し続けることを望んでいます。そうすることによってのみ、これまでの過去が示してきたように、私たちは互いの違いを受け入れて理解し合い、尊重し合うことができるのです。
ーー最後に、My Serbiaの読者、そして日本人に向けてメッセージをお願いします
まず、「あらゆる偏見を捨てましょう」と言いたいです。セルビアとその国民は、温かい心や豊かな精神を持っており、分け隔てなくすべての人を受け入れる準備ができています。私たちはいわば、「道の真ん中に立つ家」に住んでおり、多様性は日常生活の一部となっているのです。それは、建築、習慣、料理、そして自然にさえも感じられます。セルビアには、古代の文化遺産や中世の遺産に加え、古代の砂の織り成す風景、高い雪山、不思議な現象、癒しのスパなどもあります。日本の皆さんも、セルビアを訪れることで、その本質をより深く理解することができるのではないでしょうか。
<了>
※セルビア語は次ページ
【プロフィール/アレクサンドラ・コヴァチュ(Aleksandra Kovač)】ベオグラード大学言語学部日本語・日本文学科卒業後、2006年にセルビア大使館三等書記官(領事・文化担当)として来日。帰国後はセルビア外務省国家事務局参事官、外務大臣官房一等参事官、外務省外交アカデミーディレクターを務めた。 2014年に駐パリ・ユネスコ常設代表団公使参事官・次席、2018年にユネスコ協力国家委員会事務局長、ユネスコグループ長を務めた後、2021年7月に来日。現在は駐日セルビア共和国大使、駐パラオ・セルビア共和国大使(非駐在大使)。