【文/Nao】
イヴァン・タバコヴィッチ展
会期:2025年4月15日~5月24日
場所:Xビタミンギャラリー(ベオグラード)
イヴァン・タバコヴィッチ(1899年アラド生まれ、1977年ベオグラード没)は、20世紀を代表する画家の一人です。美術界における大きな変革を目の当たりにし、それに呼応した芸術家の世代に属しています。こうした激動の時代は、彼の人格と作品に消えることのない痕跡を残しました。
タバコヴィッチは絵画に加え、デッサンや陶芸にも取り組みました。ベオグラード美術アカデミーの教授として、彼はデッサンをあらゆる芸術表現の基盤と捉え、特に重視していました。さまざまな創作活動を通して、日常生活の写実的な描写や、象徴的・シュルレアリスム的な構図、さらに形態と構造を技術的に探求する高度な表現まで、幅広いモチーフに取り組みました。
本展は、ベオグラード・レサヴスカ通り19a番の個人ビル2階にある「Xビタミン・ギャラリー」にて開催中です。ペタル・ストヤノヴィッチ氏の個人コレクションから、絵画、デッサン、水彩画など50点以上が展示されます。中でも本展とコレクション全体を特徴づけるのは、タバコヴィッチによるミニチュア作品です。なかでも今回初公開となる陶芸作品は、これまで一般に公開されたことがなく、注目すべき展示です。
タバコヴィッチは長年にわたり、幅広いテーマを探求してきました。その成果は、特にデッサン、水彩画、コラージュ作品に顕著に表れています。作品には、肖像画、風景画、都市風景画、静物画、動く人物画、抽象画などが含まれます。人物(『アルレクィン、ピョートル大帝』)や肖像、日常のモチーフ(『爆撃後のセニャクの廃墟』)などを描いたデッサンには、線と形態への深い関心が一貫して表れています。
タバコヴィッチの表現力豊かな作品(『ディアボリク」など)は、第二次世界大戦後のユーゴスラビア美術の動向を反映しています。彼はしばしばダイナミズムとデフォルメを巧みに用い(『Two Affronted Heads』『Head VI』)、肖像画には心理的な内省が色濃く表れ、身体描写は写実と抽象の狭間でバランスを保っています。古代美術もまた彼の視覚言語の形成に影響を与えており、人物や肖像画の多くは古代彫刻を彷彿とさせ、芸術の連続性に対する彼の意識と、創作過程における美術史の重要性を物語っています。
注目すべきは、特にデッサン技法における実験精神に富んでいたことです。人物に加えて、都市や田園風景、建築物も数多く描いています(『Landscape with a Bridge』『Bridge on the Moriš』『Arad』)。自然を描いた作品はより流動的で表現力豊かであり、光と影の戯れが強調されています。
タバコヴィッチはまた、象徴主義や幻想的な要素にも強い関心を示しています。風景に溶け込むシュールな人物像(『Cypress Trees』『Island』)や、夢のような幻想を想起させるハイブリッドな存在を描いたデッサンもあります。これらの作品は、彼の無意識への探求を反映し、思慮深く意図的な構図へのアプローチを示しています。彼のデッサンは、卓越した技術力だけでなく、飽くなき芸術的探究心と、視覚表現のあらゆる側面を探求する能力の証でもあります。
タバコヴィッチはセルビア科学芸術アカデミー(SANU)の会員であり、1937年のパリ絵画グランプリ、1962年のプラハ絵画コンクール金メダルなど、数々の権威ある賞を受賞しました。今日、SANUが授与する「イヴァン・タバコヴィッチ賞」は、視覚芸術分野において最も権威ある賞の一つです。
キュレーター:サシャ・ヤニッチ
「これらの小さな陶器を、ぜひ実際にご覧になることをお勧めします。ギャラリー自体も特別な雰囲気を持っており、ぜひ訪れていただきたい場所です。
このギャラリーは、故人の歴史学教授の作品で、彼の著書がすべてそのまま残されています。かつてのオフィスの壁には、現在Xビタミン・コレクションのさまざまなアート作品が飾られており、ギャラリーを非常にユニークで魅力的な空間にしています」
<了>
※次ページで英語訳・セルビア語訳を掲載しています
【文/Nao】セルビア・ベオグラード在住。母は大阪出身の日本人、父はセルビア人の家庭に生まれる。 ベオグラード大学哲学部にて美術史を専攻。ベオグラード現代美術館(MSUB)にてボランティア活動および勤務を経て、現在は現代美術を専門とする「X Vitamin Gallery」で働く。