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サッカースタジアムの歩き方【セルビア蹴球旅】

レッドスター対パルチザンのベオグラードダービーとなったセルビアカップ決勝(2017年)

【文/石川 美紀子】

名古屋グランパスで選手としても監督としても活躍したドラガン・ストイコビッチ氏が代表監督を務めるセルビアですが、私はひょんなことからこの地域のサッカースタジアムを取材で巡るようになり、ここ数年でセルビアやモンテネグロ、北マケドニア、ボスニア・ヘルツェゴビナのスタジアムを30か所近く訪ねました。暑い日も寒い日も雨の日も、交通手段が限られた田舎道を1時間以上歩いたり、頼み込んでチームスタッフや選手の車に乗せてもらったり。難易度が高ければ高いほど、たどり着いたときの達成感は高く、ここでのフィールドワークは私の天職だとも思っています。
今回は、私が訪ねたスタジアムの中から、とびきりエキサイティングなスタジアムをいくつかご紹介しましょう(たどり着くまでの難易度はそれほど高くありません笑)。

レッドスターの本拠地「STADION RAJKO MITIĆ」(通称マラカナ)


■レッドスター(FK Crvena zvezda)
まずは、言わずと知れた名門レッドスターの本拠地「STADION RAJKO MITIĆ」、通称マラカナです。2021年5月現在、セルビア1部のスーペルリーガは全て無観客で試合が行われているため、我らがマラカナも閑散としていますが、本来は北側のスタンドがサポーターズシートになっています。デリエと呼ばれるレッドスターサポーターの応援は、それはそれは熱狂的なことで有名です。試合中に花火を打ち上げ発煙筒を焚き、スタンド全体の見事な燃え上がりっぷりは一見の価値があるかと思います(もちろん一応リーグの規定では禁止されているはずです笑)。
このマラカナ、ベオグラード中心部からバスでもトラムでも行けますが、ひどい交通渋滞とデリエでぎゅうぎゅう詰めの公共交通機関を避けたくて、私は徒歩で行くことも多いです。街の中心の共和国広場から歩いて1時間弱といったところでしょうか。メインスタンドではグッズショップで買い物もできますし、レッドスターの栄光の歴史が詰まったミュージアムもありますので、ぜひご見学くださいね。1991年に東京であのトヨタカップを優勝したときのトロフィーと記念撮影できますよ。

もちろん試合中です(2015年撮影)

■パルチザン(FK Partizan)
レッドスターの本拠地マラカナから、わずか500メートルほどの場所に、日本代表の浅野拓磨選手が所属していたパルチザンのスタジアム「STADION PARTIZANA」があります。レッドスターとパルチザンはセルビアサッカー界の因縁のライバル関係にあり、自分がレッドスターのファンかパルチザンのファンか、という所信表明は、セルビアでサッカーを話題にするとき最も慎重に行わなければならないものです。この対応を間違えた場合、大切な人間関係に亀裂が入りかねないほどの重要なポイントと言っても過言ではありません。私は諸般の事情と自らの立場を総合的に鑑みた結果、レッドスターのサポーターであるデリエだと公言していますので、かつては特別な事情がない限りパルチザンのスタジアムには出入りできませんでした笑。ここで浅野選手がプレーするようになってからやっと「日本人選手を観に行くの!」という名目でチケットを買ってもデリエの友人たちから咎められなくなりましたが。
このスタジアムでいちばんの難関は、チケット売り場を通り過ぎないようにすること、です。売り場はスタジアムのかなり手前、坂の下にあります。私は初めてこのスタジアムに来たとき、闘争心むき出しでスタジアムを見上げながら坂を登っていたからか気付かずに通り過ぎてしまい、チケット売り場を探してスタジアムの周りをぐるぐるまわったあげく、係員に「あの坂の下だよ」と指さされてとぼとぼ戻る、という屈辱を味わいました笑。パルチザンのスタジアムに限らず、この地域のスタジアムはどこもそうなのですが、日本のJリーグの至れり尽くせりサービスに慣れてしまっていると、チケット売り場はどこ?入り口はどこ?という情報の少なさに戸惑うかと思います。

パルチザンのスタジアムで行われたベオグラードダービーでレッドスターのサポーター席を撮影(2017年)

■ラドニチュキ・ニシュ(FK Radnički Niš)
我らがピクシー(ドラガン・ストイコビッチ氏)の故郷はセルビア中部の街ニシュで、この街が本拠地のセルビア1部ラドニチュキ・ニシュはピクシーがキャリアをスタートさせたクラブとしても有名です。スタジアムは「GRADSKI STADION ČAIR」、ここでは野間涼太選手が2016年から3年間所属していて、クラブ初の外国人キャプテンとして活躍していました。私も取材で何度も通った思い出のあるスタジアムです。
ベオグラードから南へバスで3時間、ニシュの長距離バスステーションはセルビア最大手のNiš Ekspresというバス会社のハブステーションになっています。ベオグラードから片道1500円程度で、最近はインターネットでもチケットが買えるようになりました。バスステーションからスタジアムまで少し距離があり、徒歩で30分ほどかかるのが少し不便ですが、道沿いのパン屋さんで小腹を満たしながら歩くのもよいでしょう。ニシュは食べ物が安くて美味しい街なので、試合後のセルビア料理も楽しみのひとつです。

ピクシーがデビューしたスタジアム

■スパルタク(FK Startak Ždrepčeva krv)
ニシュとは逆にベオグラードから北へバスで3時間、ハンガリーとの国境の街スボティツァにはセルビア1部のスパルタクというクラブがあります。J2町田ゼルビアにレンタル移籍していた志村謄選手が所属していることもあり、この春は取材でこのスタジアムに通い詰めていました。今となっては馴染みのスタジアムですが、ここも初めて訪れた3年前は入り口がわからず、スタジアム周辺をうろうろしたのを懐かしく思い出します。そして実は、いまだにチケットをどこで買えばいいのかはわかりません笑。セルビアでサッカー観戦をするときは、時間に余裕を持って出かけましょうね。
スボティツァはオーストリア=ハンガリー帝国の統治下だった歴史もあり、ベオグラードとは街の趣がずいぶん違います。ハンガリー系の住民も多く、セルビア語とハンガリー語が併記されている看板も見かけます。文化的にも宗教的にも多様性を感じる街です。

郊外にある自然豊かなスタジアム

まだまだ、ご紹介したい写真もスタジアムもたくさんあるのですが、またの機会に。新型コロナの影響でセルビアリーグは無観客試合になっていますが、満員のスタジアムの痺れるような空気感が早く戻ってくるようにと願ってやみません。

スパルタクのプレスルームで試合後の監督会見の準備中

【文/石川 美紀子】セルビアをはじめバルカン地域を中心に、サッカーと文化とコミュニケーションの関係をリサーチしているフィールドワーカー。もともとの専門は言語哲学だが、本業(大学教員の端くれ)のかたわらインタビュー調査でバルカン諸国をまわり、現地で活動する日本人サッカー選手を取材するようになる。主な著書に『挑戦者たちが向き合った世界と言葉—ここではないどこかでサッカーをするということ』等。最近はスポーツフォトグラファーとしても活動中。

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