大自然に囲まれて暮らす
首都のベオグラードから車で約4時間。セルビア南西部にアリリェという小さな町があります。ここが私の妻の生まれ故郷で、毎年夏には長期の休みを取り、この町でゆっくりと過ごすのが一年の楽しみです(今年は新型コロナウィルスの影響で泣く泣く断念)。
町と言っても、妻の実家は郊外にあり、標高600メートルほどの山々に囲まれています。まさに田舎と呼ぶにふさわしく、近隣住民は「あの丘を越えたところに住んでいる」というレベルです。当然、周辺に街路灯はないので、夜になると真っ暗に。何も見えません。ただ、頭上には満点の星空が広がります。夏は天の川がよく見えます。
実家に滞在中は家の手伝いをしなければいけません。鶏にエサをあげたり、畑の野菜を収穫したり、庭の雑草を刈ったりと、普段東京に住む私にとってはどれも新鮮な体験で楽しいのですが、それも最初の方だけで、毎日続くと意外と大変です。一番の重労働は薪割りです。セルビアは夏が終わると急に寒くなります。夏の終わりに、暖を取るための薪を用意しておく必要があるのです。上手に薪を割るためにはコツがあるらしく、義母は難なく作業を進めていきます。私は力任せに斧を振り下ろすだけでうまく割れません。義母は「経験の差ね」と笑います。
庭のあちらこちらでハーブを発見
本題に移りましょう。実家は庭が広いので、人の手が入っていない雑草だらけの場所がいくつかあります。しかし、目を凝らすとそこには薬草やハーブが自生していることに気づきます。妻の家族は見向きもしませんが、自然大好きの私は黙っていられません。今回はその庭で見つけた7種類をご紹介します。写真撮影は6月~9月です。
ちなみに、セルビアの家庭料理にハーブが登場することはあまりありません。義母は田舎育ちで料理に関してはかなり保守的で、ハーブを料理に入れるという発想すらありません。私は「庭にハーブが咲いているのにもったいない」と思いますが、義母としては「庭に雑草が茂ってうっとうしい」という感覚のようです。
とはいえ、セルビアではハーブはハーブティーの原料して大変重宝されているのも事実です。体調を崩したとき、ほっとひと息つきたいときによく飲まれます。ただし、自宅で自家製ハーブティーを作ることは珍しく、青空市場や薬局で袋詰めされたもの、市販のティーバッグを買って飲みます。
いかがでしたか。セルビア山間部にある家の庭には、実に多くの薬草やハーブが狭い範囲で自生していることが分かります。セルビアがハーブ大国であることもうなずけます。私が少し驚いたのは、セルビア人は身近な植物についてあまり興味を示さないこと(これは花、虫、鳥にも言えます)。妻も義母も「名前を知らなくて当たり前」で「日本人が詳しすぎるだけ」とのことです。テレビや書籍で大きく取り上げられる日本とは大違いです。
以上、庭先に咲くハーブのご紹介でした。日光を浴びながら屋外のテラスでのんびりと過ごしたり、四季折々の表情を見せる庭を散歩したりするだけで、とても穏やかな気分になれます。ハーブに囲まれた田舎暮らしは、都会では味わえない至福の時間を与えてくれます。
【文/小柳津 千早(おやいず ちはや)】大学卒業後、セルビア語を学ぶためベオグラードに留学。そこで日本語学科に通う学生と出会い、無職の身でプロポーズをして見事成功。現地で約350人の前で結婚式を挙げる。帰国後、スポーツメディア関連会社に3年半、在日セルビア共和国大使館の通訳として10年間勤務。2021年10月中旬からセルビアに移住。YouTubeチャンネル「セルビア暮らしのオヤ」で現地の自然、文化を配信中。