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セルビア滞在記2022―壁画修復プロジェクト② 講演編

【文/嶋田 紗千】

先週の「視察編」に引き続き、「セルビア滞在記2022」をお届けいたします。今回は「講演編」です。

正しく理解してもらうために

セルビア人記者は自由な発想の下、記事を書くため、こちらの意図をあまり読み取ってくれません。時に事実がゆがめられて報道されこともあります。特にスポンサーの名称は必ず入れるようにお願いしているのですが、2団体両方入らないことが度々起こります。

新聞記事で「日本からの支援で修復(復興)」というタイトルが付けられては、まるで日本政府からの支援のように伝わります。ある特定の団体がこのプロジェクトの意義を理解してくれ、寄付してくれたことがきちんと伝わるのはいつのことでしょうか・・・。

それならば、自分の声で説明したらよいのではないかと思っていたところ、チャチャク(セルビア中部の都市)から講演の依頼がありました。なぜ私がこの活動をしているのか、どのような日本人が関わっているのか、そしてセルビアへの思いなどを語ることにしました。

チェチャクの講演会での余興
中世音楽との饗宴

チャチャクで文化芸術について講演会やコンサートを企画しているイルモス協会という団体からご依頼いただき、市立図書館で講演をさせてもらいました。聖歌隊をしているナタシャさんとヴェスナさんが私の講演の前後に中世音楽を披露してくださり、会場がとても華やぎました。

講演内容は、以下。

  1. 私が修復プロジェクトを行うきっかけとなった、恩師の鐸木道剛先生とセルビア科学芸術アカデミーのゴイコ・スボティチ先生が行ったヤシュニヤ修道院の修復プロジェクト 
  2. 60年前にユーゴスラビアへ留学してから長年スボティチ先生と交友していた翻訳家で文筆家の亡き田中一生先生
  3. プロジェクトを支援してくださった住友財団と在大阪セルビア共和国名誉総領事館(大日本除虫菊株式会社内)
  4. 昨年2ヶ月間修道院に滞在して気付いたこと
折り紙をもった和装の女

チャチャクの講演会の後、友人を通してラシュカ(ノヴィ・パザルの隣町)の小中学校の先生ニコラさんより小学校高学年から中学生向けに講演をしてもらえないかと連絡がありました。ちょうどノヴィ・パザルの修道院へ行く予定があったので、お引き受けすることにしました。

セルビア語の先生に相談したところ、生徒向けなら細かい経緯を話すのではなく日本のイメージを提示した方がよいだろうと。講演内容は半分にして、残りの時間で折り紙を教えることにしました。

ラシュカの講演会の様子

急遽、決まった「講演会+ワークショップ」ではありますが、どちらも事前に準備していたもので対応できました(今週は講演について、次週ワークショップについてお伝えします)。千代紙は9月上旬にミランさんのイベント(詳しくは次週)用で日本から400枚ほど持ってきており、それに合わせて浴衣も持参していました。

多くの生徒たちにとって私が初めて出会う日本人となるので、浴衣姿で行うことにしました。講演が始まる前から手を振ってくれる生徒たちがたくさんいて、講演中も反応がよく、「日本はどこにあるか知っていますか?」と尋ねると大きな声で答えてくれました。

日本で使っている世界地図(日本が中心で右にアメリカ大陸、左にユーラシア大陸)を提示すると、彼らの世界地図では右端にある小さい島国が意外と大きいことに気付き驚いていました。アニメや漫画を通して知る日本のイメージとはちょっと違った側面を紹介してみました。いつか日本へ行ってみたいと思ってくれれば嬉しいです。

ラシュカの生徒たちと記念撮影
予定は未定の世界で、突如・・・

その後、この修復プロジェクトのメンバーで、セルビア正教美術大学の准教授(保存修復)をしている友人ネマニャさんがチャチャクでの講演会に参加できなかったことが残念だと言って、自ら私の講演会をベオグラード(首都)で企画してくれました。実はチャチャクの告知を見た友人から、なぜベオグラードで講演しないのかという問い合わせが結構ありました。

そのおかげでセルビア正教美術大学の学生だけでなく、私の友人が自分の友人を連れてきてくれて会場は満席になりました。日本とセルビアの友好関係やそれに携わった人々について関心を持ってくれたようで嬉しかったです。やっはり、ベオグラードが私のホームなんだなと実感しました。

最後に講演原稿のセルビア語チェックをしてくれた高橋ブランカさんと岡島アルマさん、そして音読の練習に毎回付き合ってくれた私のセルビアの家族ゾリツァ・ジュロヴィチさんに感謝いたします。

ベオグラードでの講演会の様子

【文/嶋田紗千(Sachi Shimada)】美術史家。岡山大学大学院在学中にベオグラード大学哲学部美術史学科へ3年間留学。帰国後、群馬県立近代美術館、世田谷美術館などで学芸員を務め、現在、実践女子大学非常勤講師、セルビア科学芸術アカデミー外国人共同研究員。専門は東欧美術史、特にセルビア中世美術史。『中欧・東欧文化事典』丸善出版に執筆。セルビアの文化遺産の保護活動(壁画の保存修復プロジェクト)に従事する。

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