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Blok 45を彩るストリートアート【ベオグラードアート通信・第6回】

【文/山崎 佳夏子

イースターを過ぎるとセルビアは一気に活気に満ち溢れる。日は長くなり、日没は19時半を過ぎるので仕事や学校が終わった後の人たちで夕方の公園はとても賑やかだ。寒くて冬の物悲しい景色から春になると一気に花が咲き木々が緑色に芽吹くように、人々も外に出始めるので冬と夏では全く違う景色が見られる。

今回のベオグラードアート通信は美術館やギャラリーを離れて、ベオグラードの旧市街の対岸に広がる新市街・ノヴィベオグラードの団地群の一つであるBlok 45(45団地)のストリートアート(グラフィティアート)を紹介したい。戦後の社会主義時代にできたノヴィベオグラードは、各団地をBlokと呼びそれぞれに数字が振られている。ちなみに一番初めにできた団地はBlok 1だが、その後連続の数字が振られているわけではなくランダムなので住所は非常に複雑だ。Blok 45は1970年代に建てられた大きな団地だ。

Blok45の話に入る前にベオグラード全体のストリートアートについて簡単に説明しておく。ノヴィベオグラードに限らずベオグラードではストリートアートで溢れている。一番有名なアーティストが日本のジュエリーデザイナーHirotakaともコラボしているTKV。他にもRageやHope、Akiraなどがいる。またスポーツクラブのパルチザンのファンの多いドルチョル地区等にパルチザンファンの有名人の肖像を描くGTRもよく知られている。

Blok 45のHope, Nes, Rukiのグラフィティ(写真:山﨑佳夏子)

グラフィティは時折描かれているものが政治的な内容でマスコミに注目されて消されたりし(逆に政治的な理由で消せないということもある)、治安を悪化させる一面も否定できないが、TKVなど女性のアーティストの活躍もありストリート文化として街に定着している。ちなみに私の推しのアーティストはティヤナ・トリプコヴィチ(Tijana Tripkovićとアート通信の第一回でも紹介したソフィヤ・パシャリチ(Sofija Pašaljićだ。

ベオグラードのストリートアートを紹介するインスタグラムアカウント(Street Art Belgrade)や、ストリートアートを周る街歩きも企画されている。ベオグラード盲人協会の協力でグラフィティの3Dモデルを設置し、視覚障害のある人も3Dモデルを手で触ってグラフィティを鑑賞できる面白い試みも行われている。

Hope, Nes, Jensのグラフィティ(部分)。Blok 45は市街地を走るトラムの停留所があるのでトラムの絵が描かれている(写真:山﨑佳夏子)

今回紹介するBlok 45は、「セルビアで初めてグラフィティが描かれた場所」だとされている(ソースはBlok 45の歴史と文化をまとめたブログFourtyFivers)。1985年頃にブレイクダンスを練習する若者によってスプレーで描かれた文字と絵があったらしい(その場所はなんと公立の保育園の外壁!現在は上から白く塗り消された後が残っている)。その後本格的にグラフィティが描かれるようになったのは1995年頃で、Jens、Mise、Cobe、JamaなどのアーティストがBlok 45に作品を描くようになった。

それから現在まで、HopeやNes、Sker、Vojaなど様々なアーティストたちが団地の建物の壁や駐車場の扉、そして団地にはサヴァ川が隣接しているので河川敷のコンクリートなどにたくさんの作品を残している。

セルビアでも人気のNARUTOのキャラクターや、アメリカのヒップホップグループWu-Tang Clanのメンバーの絵が描かれていたり、新しいグラフィティが少しずつ増えていくのは楽しい。

Skiv, Sker, Masterのグラフィティ。2020年に描かれたもので新しい(写真:山﨑佳夏子)

外国のカルチャーに影響を受けた内容だけでなく、団地に住んでいた青年が若くして亡くなり彼の仲間達が追悼の意味を込めて彼の肖像を書いたものや、ユーゴスラヴィア紛争で国際指名手配を受けていたラドヴァン・カラジチが正体を隠して住んでいたのがこのBlok 45で、彼が潜伏時代によく姿を表していた居酒屋の外壁に肖像があるなど、この団地で見られるストリートアートは多様だ。

亡くなった青年ヨヴァン・ミロサヴリェヴィチを追悼して、毎年団地のフットサル場では彼の名を冠したフットサルトーナメントも行われている(写真:山﨑佳夏子)

団地のストリート文化はファッションカルチャーにも影響を与えているようで、ベオグラードで人気のアパレルショップDechko Tzarの主宰者兼デザイナーの一人はBlok 45でグラフィティを描いており、数年前にCOZYという女性のカジュアルファッションブランドは団地内のパン屋や自転車屋などの集まる商業スペースにオフィス兼初店舗をオープンした。COZYのサイトの着用モデルもBlok 45近辺に住んでいる子育て中のママモデルが起用されていたり、Blok 45のライフスタイルを発信しているのが面白い。

右側の抽象美術的な作品はPirosのもの(写真:山﨑佳夏子)
Nes(Nes one)はDechko Tzarのデザイナー(写真:山﨑佳夏子)

Blok 45はベオグラードの中心地からバスやトラムで30〜40分くらい。隣接するサヴァ川にはスプラーヴと呼ばれるボートハウスレストランがあるので、春や夏の暖かい季節には川を眺めながら食事もできるし、夏季のみアダ島まで行くボートも出ているのでそれに乗っても楽しい。ベオグラードの普通の観光に物足りない人はぜひBlok 45を訪れてみると良いかもしれない。

ベオグラードでドナウ川に合流するサヴァ川沿いは市民の憩いの場所(写真:山﨑佳夏子)
場所情報

Blok 45

住所: Blok 45, Novi Beograd, Serbia


【文/山崎 佳夏子】美術史家。ベオグラード在住。岡山大学大学院在籍中に1年半ベオグラードへ留学し、セルビアの近代美術の研究をする。一時帰国を経て再度ベオグラードへ渡航し結婚。2020年に生まれた長男の育児中。主な著作に『スロヴェニアを知るための60章』(共著、明石書店、2017年)、『ボスニア・ヘルツェゴヴィナを知るための60章』(共著、明石書店、2019年)(共に美術の章の担当)。

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