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セルビア人が一日に何杯も飲むコーヒーの話【前編】

【文/小柳津 千早】

「セルビア人はコーヒーなしでは生きられない」と言われるぐらい、セルビアはコーヒー文化が根付いています。一番よく飲まれるのは、コーヒーの粉を煮出して淹れる「トルココーヒー」と呼ばれるものです。セルビアなのにトルコ?と思われるかもしれませんが、セルビアは過去にオスマン・トルコの支配下に長く置かれていたため、食文化にもその影響が色濃く残っています。トルコからもたらされたコーヒーはセルビア人の生活スタイルに定着し、今では普段の暮らしに欠かせないものとなっています。そのため、「トルココーヒー」ではなく「セルビアコーヒー」と呼ぶ人も多いです。

セルビア人はコーヒーをいつ飲むのでしょうか。セルビアに住む友人に聞いたところ、朝起きたらまず目覚めの一杯、仕事場に着いたらもう一杯、昼食後にまた一杯、帰宅後にさらに一杯と、一日に何杯も飲むことが分かりました。そして、コーヒーを飲むときは必ず友人を誘ったり、家族の分も淹れたりして、一緒の時間を共有するようです。どの家庭もコーヒーを常備していて、来客があれば必ずコーヒーを淹れます。興味深いのは、客側も手土産にコーヒーを持参することが多く、「どれだけあっても困らない」のでとても喜ばれるとのことです。

セルビアコーヒーの特徴とは?

ここでセルビアコーヒーの特徴をいくつかご紹介します。

1.豆は「超」極細挽き

エスプレッソに適した極細挽きよりもさらに細かく挽いたものを使います。さらさらとした粉状で、見た目はココアパウダーに近いです。

2.専用のポット「ジェズヴァ」を使う

「ジェズヴァ」は細長い柄が付いたポットのことで、牛乳を温めるミルクパンよりも径が小さいのが特徴です。伝統的なものは真鍮や銅などの金属で作られますが、現在は実用に適したホーロー製のものがよく使われます。

3.コーヒーは煮出して淹れる

「ジェズヴァ」に水を入れ、沸騰したら(または沸騰寸前に)火から離し、大さじ1杯(1人分)の粉を入れます。再度火にかけ、煮立つまで待ちます。泡が吹きこぼれる直前で火から離し、コーヒーカップに注いで出来上がりです(店ではデミタスカップで提供されます)。ちなみに、コーヒーを注いだ時「表面に細かな泡が残る=上手に淹れた」ということらしいです。

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4.飲むのは上澄み部分

「超極細挽き」の粉でもお湯には溶けません。カップに注いだ直後、粉はコーヒーの中でしばらく浮遊します。少し待つと沈殿するので、上澄み部分だけを飲みます。とはいえ、完全に分離するわけではないので、口の中にざらつき感は多少残ります。慣れたら気にならなくなります。沈殿したどろどろの粉は飲みません。

5.基本的にはブラックで

砂糖なしのブラックで飲む人がほとんどです。ミルクを入れることはまずありません。味は苦みとコクがあり、強い香りが特徴です。

6.たまに始まるコーヒー占い

飲み終わったカップをソーサーにひっくり返し、しばらく待つと、沈殿した粉がカップの内側に流れて模様を描きます。この模様を見て、飲んだ人の運勢を占います。占う人は特別な資格を持っているわけではなく、「ここに分かれ道が見える。あなたはまもなく重大な決断を迫られる時が来る」「女性の顔が見える。運命の人に出会うチャンスだ」とそれなりのことを言い、場を盛り上げます。ほとんどは遊び感覚です。

後編は、セルビアのカフェ事情とコーヒーブランドについてご紹介します。


【文/小柳津 千早(おやいず ちはや)】大学卒業後、セルビア語を学ぶためベオグラードに留学。そこで日本語学科に通う学生と出会い、無職の身でプロポーズをして見事成功。現地で約350人の前で結婚式を挙げる。帰国後、スポーツメディア関連会社に3年半、在日セルビア共和国大使館の通訳として10年間勤務。2021年10月中旬からセルビアに移住。YouTubeチャンネル「セルビア暮らしのオヤ」で現地の自然、文化を配信中。

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