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参列者350人! セルビアの田舎で盛大な結婚式を挙げた日本人

【文/SERBIA×英和PROJECT】

こんにちは! 私たちは東洋英和女学院大学(横浜市)の「国際教養セミナー」(担当講師:町田小織)を受講する井上優香・関美裕・福濵美優です。この授業は日本で唯一、駐日セルビア共和国大使館と連携しており、日本人にセルビアの魅力を伝えることをミッションとしています。

みなさんはセルビアの結婚式をご存知でしょうか。

日本では挙式と披露宴を合わせても数時間で終了しますが、セルビアの結婚式は長いところでは数日間も続きます。この事実を知った私たちは、セルビアの盛大な結婚式に興味を持ちました。そのため、現地でセルビア人女性と結婚式を挙げたセルビア共和国大使館の職員でMy Serbiaの運営者でもある小柳津(おやいず)千早さんにインタビューしました。小柳津さんのお話を通して、セルビアの文化をお伝えします。

ウエディングドレスは結婚式当日まで秘密

――結婚式はどこで挙げたのですか?

妻の実家がある小さな田舎町で挙げました。セルビア南西部のアリリェ(Arilje/Ариље)というところで、首都ベオグラードから車で3時間ほど走ったところにあります。自然が豊かで、ラズベリー農園がたくさんあります。結婚したのは10年以上も前のことで、当時は語学の勉強のためにセルビアに住んでいました。妻も大学を卒業したばかり。お互い無職なのに結婚したんです。今思えば何を考えていたんでしょうね(笑)。結婚式に僕の親族は参列しませんでした。自分のことに精いっぱいで、みんなの面倒を見ることが難しくなると言って納得してもらいました(※帰国後に親族だけの簡単な式をあげました)。

アリリェのラズベリー畑

――結婚式はどんなスケジュールで行われたのですか?

セルビアでは結婚式前夜に新郎新婦それぞれがバチェラーパーティー (独身お別れパーティー。結婚式前夜を同性の友人たちと過ごす宴 )に行きます。ただ、僕らは当時ベオグラードに住んでいて、友人の多くも同じ。彼らは結婚式当日に来る予定だったので、前夜には限られた人数しかいませんでした。それなら「新郎新婦関係なくみんなで飲みに行こう」と。羽目を外すみたいことはなかったですね(笑)。

結婚式当日の朝、新郎が先に披露宴会場に入り、新婦が来るのを待ちます。この時点ですでに親族や親しい友人は集まっています。さきほどのベオグラードの友人たちもここで合流します。新婦が登場したら、勢い付けのコロ(セルビアの民族舞踊)を踊ります。みんなで手をつなぎ、輪になって、複雑な足のステップを踏みます。

遅めの朝食をとった後、婚姻手続きをするためにみんな一緒に市役所に向かいます。僕はセルビア正教徒ではないので、教会で婚姻の儀式を行うことはできませんでした。役所には登録官がいて、目の前で誓いの言葉を述べ、誓約書にサインして晴れて夫婦になります。その後、建物を出るタイミングでブーケトスをして、披露宴会場に戻ります。

――結婚式の準備は奥様とふたりでなさったのですか?

日本では婚約者同士でウエディングドレスを選ぶことがあると思いますが、セルビアでは「新郎はウエディングドレスを結婚式当日まで見てはいけない」という習慣があります。そのため前日は妻の実家ではなく、ホテルに泊まる必要がありました。結婚式当日になって初めてどのようなウエディングドレスを選んだのか知るのです。

披露宴の準備もすべて自分たちでやります。会場の予約、料理人やお手伝いさんの手配、料理メニューの考案、食材の確保、ウエディングケーキは誰に作ってもらうのかなど。このあたりは妻の両親からアドバイスを受けました。びっくりしたのは会場のトイレで使用するトイレットペーパーも自分たちで購入したこと。完全に手作りです。会場は多目的スペースみたいな場所で何もなかったので、風船やリボンで飾り付けしました。少し安っぽい感じは否めないですが、セルビアでは定番です。

細心の注意を払うのは料理と音楽です。メイン料理に豚の丸焼きを出す出さないで結婚式の評価が二分します。あとはワインやビール。費用を抑えようとして正体不明の安物を出すのは得策ではありません。そこは見栄っ張りな国民性が垣間見れます。

音楽も大事。具体的に言えば歌手とバンドの手配です。セルビアの結婚式は参列者が歌手にお金を払って歌をリクエストします。歌や演奏が下手だったり、リクエストに応えられなかったりすると興ざめします。地元で評判の歌手とバンドをいち早く手配できれば、結婚式は成功したと言ってもいいでしょう。

全然知らない人も結婚式に来る
市役所の前でコロを踊る様子

――海外のドラマや映画で「just married」と書かれた新郎新婦の車を見ますが、あんな感じで、車で移動したのですか?

婚姻を届け出るために会場から市役所まで車で移動したのですが、僕たちや親族を先頭に、友人らの車が続きました。ベオグラードに住む友人たちのためにバスを一台チャーターしたのですが、そのバスも車列に加わり、さながらパレードのようでした。車には風船やリボンなどの装飾が施してあって、クラクションを鳴らしながら、わざとゆっくり走るんです。通りすがりの人が手を上げてお祝いしてくれるんですよ。車列の後ろで渋滞が発生してもお構いなし。おめでたいことなので、この時ばかりはみんな寛容になるんです。市役所に到着してもすぐに建物に入らない。この日のために雇ったブラスバンドの演奏とともにコロをしばらく踊ります。

車列の様子(画像提供: Tanja Draškić Savić)

――またコロを踊るんですね(笑)

婚姻届にサインを済ませ、建物から出た後もコロを踊りましたよ。演奏されている間は、エンドレスでステップを踏み続けます。 長すぎていつ終わるんだろうと思うくらい延々と踊ります(笑)。僕も見よう見まねで踊りますが、単純なステップしかできません。

――日本舞踊だとお稽古を受けた踊り手さんのみが踊るイメージで、素人にはハードルが高いという印象を持つのですが……

そうですね。でも、セルビアの民族舞踊のコロは、子供から大人までセルビア人なら誰でも踊れる大衆的な踊りです。子供の時から踊っているので体にステップが染みついているんですよ。セルビア人にとってコロはとても身近なものです。

――披露宴で新郎新婦は参列者にどのようなあいさつをするのですか?

会場の入口で参列者を出迎えます。まずは「今日はありがとうございます」とあいさつ。握手をしてから、左右の頬を交互に3回合わせます。この時、頬を合わせるだけの人もいれば、軽く唇を当てる人もいます。合わせるときの向きや、左右どちらからかなどは決まっていません。セルビアでは一般的なあいさつですが、日本人は少し戸惑うかもしれませんね。ちなみに、僕と妻は200人近くの参列者とあいさつを交わしました。

―― そんなに多いんですか!?  全員に招待状を出したのですか?

入口であいさつしたのはだいたい200人ぐらいですが、最終的には350人ぐらい集まりました。親族や親しい友人には招待状を出しますが、友人の家族・親戚、そのまた友人や家族も来ます。妻に「あの人誰?」と聞いても「知らない」と答えるばかりでしたね。あと、僕たちの隣の会場で別の披露宴があったのですが、そこからも人が流れてきました。「日本人が結婚式を挙げているぞ」って。もうなんでもありでした。

日本では招待状をもらった人が披露宴に参加できますが、セルビアでは新郎新婦をお祝いする気持ちがあれば、意外と参加できたりします。セルビアを訪れた時に結婚式を見かけたら、のぞいてみるのもいいですね。日本の堅苦しい披露宴と違い、とても楽しくてアットホームな雰囲気です。

セルビアの結婚式は楽しんでなんぼの世界
披露宴の様子

――日本のように参列者はご祝儀をお渡しするのでしょうか?

日本の結婚式では、招待状が届いて、当日式場の受付でご祝儀を渡します。しかし、セルビアではお金よりも物を渡すことの方が多い気がします。食器などの日用品、絵画、普段は飲めないようなお祝い用のワイン、種類は様々です。

――日本の披露宴では新婦が複数の花嫁衣装を着ることもありますが、奥様はどうでしたか?

日本のようにお色直しの習慣はありません。だから妻も披露宴の間はずっと同じウエディングドレスを着ていました。スカートの裾が長かったので、とても踊りづらそうだったのを覚えています。

――披露宴の内容についてお聞きしたいです。日本では新郎新婦の紹介、余興、挨拶などがありますが……

日本とは違ってタイムスケジュールはありません。司会もいません。本当に自由。基本的に新郎新婦、親族、参列者関係なく、最初から最後までずっと歌って、ずっと踊っています。疲れたら自分の席に戻って料理を食べる。その繰り返しです。唯一日本と同じなのはウエディングケーキ入刀ですね。

料理に関しては、最初にチーズ、ハム、サラダなどの前菜が出ます。その後にスープ。そしてメイン料理です。最初にも言いましたが、僕たちは豚の丸焼きを出しました。やっぱり反応は良かったです(笑)。

音楽についても少し話すと、歌手とバンドは参列者から直接お金を手渡され、曲のリクエストに応えていきます。歌の場合はターボ・フォークと呼ばれるテンポの早い大衆音楽、曲だけの場合はコロが踊れるような伝統的な民族音楽です。楽器はトランペット、アコーディオン、キーボード、ドラムなど。大変なのは鼓膜を突き破るほどの爆音がずっと続くこと。セルビア人にとっては普通のことですが、僕は慣れていなかったのでめちゃくちゃ疲れました。

――結局、披露宴はいつ終わったのですか?

昼過ぎに始まり、終わったのは日をまたいだ夜中の3時頃でした。その頃には親族や友人ぐらいしか残っていませんでした。お義母さんから「もういいよ」と言われたので家に帰りましたが、翌日というか同じ日の午前10時からまた簡素な宴が始まりました。「まだ続くの?」と思われるかもしれませんが、これでも短くした方なんです(2日目は昼過ぎに終了)。僕が日本人なのでみんなから「セルビア式はおまえには無理だ」と言われたからです。セルビア人同士なら数日続くこともあります。

――お話を聞いていると、涙ありの感動的な日本の披露宴とは掛け離れているように感じました。実際のところはいかがですか?

日本の披露宴は親や子の涙なくして成り立たない感じですよね。新郎新婦の新たな門出を祝うよりも、娘・息子の巣立ちを悲しむ傾向が強い気がします。しかし、セルビアでは違います。新しい家族が増えるおめでたいパーティーに涙は必要なし。披露宴の最後の方はみんな酔っぱらっています。テーブルの上に立って踊り、ガラスのコップを床に投げて、じゃんじゃん割ります。これがセルビアのお祝い方法です(※割れたコップはあとで新郎新婦に請求されます)。エミール・クストリッツァ監督の映画『アンダーグラウンド』をご覧になった方なら分かると思いますが、まさにあんな感じですよ。日本では感動を売り文句にしていますが、世界から見れば異質だと思います。「家族が減って寂しい」ことよりも「家族が増えてうれしい」という考えの方が合っているような気がします。

――最後に、セルビアの結婚式の魅力を教えてください

今回の話はあくまで僕がセルビアの片田舎で体験したことで、セルビアの結婚式がすべてこうであるとは限りません。首都のベオグラードだともっとシンプルで、披露宴はレストランを貸し切ってひと晩限りというケースが多いです。それでも、歌、演奏、踊り、おいしい料理があるのはどこも一緒ですね。

セルビアの結婚式の魅力は誰もが自由に楽しめること。新郎新婦、親族、参列者、年齢、性別、地位など分け隔てなく、みんな一緒になって歌や踊りを楽しみます。コロを踊る時にみんなで手をつなぎますが、隣の人が見ず知らずのおじいちゃんだったり、小さな子供だったりするわけです。そこにいるすべての人が家族のような、温かな雰囲気を感じられるのがとても素敵ですね。

――日本とは異なる結婚式のお話が聞けてとても楽しかったです。貴重な体験をお話しいただき、ありがとうございました!

<了>

みなさん、いかがでしたか? 今回ご紹介した結婚式はほんの一例ですが、セルビアの結婚式がどのようなものか、イメージできましたでしょうか。セルビア人の友達がいる方はもちろん、いない方でも、セルビアで結婚式に遭遇した時にはぜひお祝いしてみてください。幸せのお裾分けがもらえるかもしれません。

取材後記

福濵 美優
私が「国際教養セミナー」(※1)を受講した理由は、セルビアのことを知り、もっとセルビア人と交流したいと考えたからです。高校生の時、日本語教師のボランティアをしていたのですが、その時はじめてセルビア人に出逢います。その際、セルビアの知識がなかったために、セルビアに関する話題で会話ができなかった悔しい経験があります。しかしセルビアについての知識を深めることができた現在なら、セルビアの話題を交えながら日本語を教えることができます。また、セルビア流の結婚式を通じて、隣人の隣人その先の人までも大切にする温かな国民性も感じることができ、一番訪ねたい国になりました。コロナが収束したらメンバーと現地に訪問したいです!
井上 優香
この「SERBIA×英和PROJECT」(※2)は、セルビアに対する興味や関心をさらに深めるきっかけになりました。最初のころ、セルビアに関してはヨーロッパに位置する国、という知識しか持っていませんでした。このプロジェクトに参加するにあたり、なぜセルビアという国をピックアップしているのか、その魅力とは?という答えを見つけるために、今まで学んできました。プロジェクトを通じて考えたセルビアの一番の魅力とは、セルビアの人々の家族・友人らを大切にする愛情深い人柄だと思います。今回、インタビューに協力してくださった小柳津さんのお話から、確かにそう感じることができました。しかし多くの日本人はセルビアに触れる機会がないため、その魅力が伝わりづらいのが現状です。私たちが結婚式という話題からセルビアの魅力を感じたように、どんなに些細なきっかけでもいいので、多くの人にセルビアの良さを知って欲しいと心から思います。
関 美裕
私が「国際教養セミナー」を受講しようと思ったきっかけは、シラバスを読んで、セルビアとはどういう国なのか、国民性や文化などに興味を持ったからです。セルビアに行ったことはなく、知識もあまりありませんでしたが、授業を通して、先生や小柳津さん、大使秘書のティヤナさんにお話を伺ったり、メンバーと一緒にセルビア料理を食べて、自分なりに調べてみたりして、セルビアの魅力をたくさん知りました。情報収集しているときに印象に残ったのが、セルビアについてとても楽しそうに語る皆さんの姿です。本当にセルビアのことが好きなのだと伝わったのと同時に、現地に素敵な思い出があるのだと思いました。そして、セルビア人は家族や隣人を大切にします。新型コロナウイルスが収まった後、そうした温かい国民性と魅力を持つセルビアに早く行きたいです!

※1 東洋英和女学院大学の正課科目。2年次以降の選択科目で、学部学科を問わず履修可能。
※2 2016年度より駐日セルビア共和国大使館と連携した東洋英和女学院大学のPBL(Project-Based Learning)。今回のインタビュアーは7期生。

インタビュー実施日:2021年7月2日
調査時間:2時間30分
語り手:小柳津 千早
聞き手:井上 優香、関 美裕
編集:福濵 美優、井上 優香、関 美裕

【文/SERBIA×英和PROJECT】東洋英和女学院大学の「国際教養セミナー」(担当:町田小織)を受講する学生で構成。日本人にセルビアの魅力を伝えることをミッションとし、2021年度は7期生が活動中。

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