【構成/My Serbia】
2020年12月にMy Serbiaが誕生してから2年の月日が経ちました。この間、私たちはセルビアの魅力を皆さまに知ってもらいたいという一心で、専門家による記事や料理動画の配信、文化交流イベントの支援、メディア出演など、さまざまな活動に取り組んできました。その中で特に話題になったのがセルビア料理のレトルト食品企画でした。昨年12月に第一弾となる「ムチュカリッツァ」(豚肉のパプリカ煮)、今年7月には第二弾「パプリカシュ」(鶏肉とパプリカのシチュー)がセルビア共和国大使館の監修の下、福岡市の調味料の老舗・松原食品株式会社から発売。私たちMy Serbiaは商品化の提案・企画・宣伝等に携わりました。今回は開発者である同社の奈良原一平専務にインタビューを実施。商品販売後の反響や今後の展望についてお話を伺いました。
多くの人から「おいしい、日本人の口に合う」という言葉が届いた
ーー松原食品が各国大使館と連携して開発されたレトルト食品「おうちで旅する世界の絶品グルメ」シリーズが好評です。セルビアからは日本セルビア友好140周年を記念して「ムチュカリッツァ」、「パプリカシュ」が販売されましたが、反響はいかがでしたか?
セルビア料理を初めて召し上がるお客様がほとんどでしたが、多くの方においしかった、日本人の口にも合う、とのお言葉をいただいています。私たちもこの商品を通じて、今までであれば知り合えなかったような人と出会い、交流の幅や新しい販路が広がることになりました。それに加えて、ジョージア料理の「シュクメルリ」の後、続けてこれら2つの商品を発売しましたので、松原食品が世界の料理に挑戦していく覚悟を示すような、そんな商品にもなりました。
ーー奈良原さんご自身は、セルビア料理の魅力をどのようにお考えですか?
味はもちろんおいしいですし、見た目も美しく、まさに美を追求した料理だと感じました。パプリカを煮込むという食べ方、そして、それによって得られる味の深みも、私にとっては新発見でした。
味の再現のために何度も改良を重ねる
ーー最近では、他国の大使館からオファーが絶えないそうですね。近況を教えてください
おかげさまで各国大使館よりお話をいただいておりまして、まずはシリーズとして10カ国の料理を発売することを目指しています。国数を面で展開して品揃えした後は、シリーズ各国の料理情報を深掘りして、さらにラインナップを増やしていきたいです。
ーーラインナップを見ると、日本では馴染みのない料理が多いことに気がつきます。何か意図があるのでしょうか?
あまり馴染みのない料理を知ってもらうことで、文化や風土に思いを馳せたり、親近感を持ったり、「食」をひとつの機会として、その国に興味を持ってもらいたい。果てはその国に行ってもらいたい。そんな風にして、このシリーズが文化交流の促進、そして一人ひとりの成長のきっかけになれたら、と思っています。
ーー国によって食文化や料理の個性も異なると思います。大使館との共同開発において大切にしていることは何ですか。また開発における苦労話などがあれば教えてください
食には明確な国境がないので、近隣の国にも同じ名前の料理や、調理方法が同じような料理が存在します。ある料理がその国だけの伝統料理で、あたかも正統であると捉えられてしまうような、そんな誤解を生む情報発信をしないように気を付けています。具体的には、「○○料理」という表現をできるだけ避け、あくまでその国バージョンの料理として伝わるように工夫する等です。
開発の苦労というと、現地でしか手に入らない原料を何に代替して再現するのか、いつも悩ましい問題です。それに、食べたことのない料理を大使館から提供いただいて再現しますから、多い時は10回以上改良します。お互いに根気が必要なので、途中でモチベーションが下がらないよう、こまめに連絡することを心がけています。
ーー今年6月には、奈良原さんの母校である青山学院大学の学食で「ムチュカリッツァ」が提供されました。これは奈良原さんのアイデアから生まれ、セルビア共和国大使館と大学の学生団体が連携して実現したものです。このプロジェクトについて教えてください
コロナ禍で留学に行けない、留学生が来ない、海外に行けない、そんな学生たちに何かできないか、限られた環境下で国際的な経験をする機会を提供できないか、そのような思いで大使館と大学の橋渡しをしました。プロジェクトメンバーの学生(※青山学院大学学生有志、経営学部生1〜3年で構成されている公認団体「経営学部学生リーダーズ(SBSL)」のセルビアプロジェクトメンバー)はもちろん、それ以外の学生たちにも、学食という身近な場所を通じて気軽に異文化に触れてもらおうと考えてのことでした。非常に好評で、連日売り切れということでしたので、セルビア料理、そしてセルビアの魅力がたくさんの方に伝わったと思います。
世界の料理を一度に楽しめるレストランをいつか作りたい
ーーセルビアは農業国でおいしい野菜、果物、肉を生産しているにもかかわらず、子どもたちは料理に意外に無関心で、偏食傾向も見られます。食品ロスも多いです。いわゆる「食育」がまだ発展途上のような気がします。奈良原さんご自身は二児の父ということで、子どもたちが食に関心をもってもらうために何か工夫していることはありますか
食べたことがない料理も、いわゆる食わず嫌いをさせず、まずは食べさせるようにしています。結果、口に合わなかったら致し方ないのですが、食べることで新たな食経験値を積むことになるかな、と思っています。それと、弊社製品を販売してくださったり、使用してくださったりしているお店に、できるだけ子供たちと訪れるようにしています。自分と自分の家族にとって関わりのある商品や食材を、お客様が手にとったり、召し上がったりするシーンに出会うことで、いろいろな料理や食材に興味を持って、そして有り難みを感じてもらうことにつながればと思っています。
ーー会社としてこれから新たに考えていること、取り組みたいと思っていることはありますか?
大使館同士を繋いで、学食の月替わりメニューや学園祭など、共同でのイベントを企画したいと考えています。ゆくゆくは、世界の料理を一度に楽しめる、そんなレストランを作りたいと思っています。そして、いろいろな国でレストランを出店し、世界の料理とともに日本料理も広め、食文化の交流を深め、国際文化間の相互理解の一助を担えるような会社にしていきたいです。
【プロフィール/奈良原 一平(ならはら いっぺい)】青山学院大学卒業後、キッコーマン食品㈱に6年間勤務。1945(昭和20)年創業の福岡にある松原食品株式会社の後継者としてメーカーコラボや産学連携、各大使館との商品開発など食品メーカーとしての存在価値をあげるべく邁進中。