My Serbia(マイセルビア)

セルビアの美・食・住の情報が集まるライフスタイルマガジン

ダメなセルビア人より

【文/高橋 ブランカ

セルビア人は面白い。賛成ですか?はい、賛成ですね!

でも、ちょっと待ってください。曖昧な表現を好む日本語にしても「セルビア人は面白い」と言うのは曖昧過ぎる感じがするはずです。何がどう面白い?相手を笑わせるから?

はい、少し近づきました。セルビア人――皆ではないけれど、かなり大勢の人――は話し相手をよく笑わせる。小話のレパートリーの多い人と会うことはとても楽しい。どこから出てくるか、と思うぐらい、小話が絶えない人をかなり知っています。東京に住んでいる友達のボバは、例えば、何について話しても、そのことを面白おかしく物語る小話を知っています。ボバほど小話を知っている人はそういませんが、セルビア人の集まりには小話が飛び交うことは絶対です。ユーモアはセルビア人の特徴と言っても過言ではない。

東京のセルビア人仲間が集まる時も、笑いが絶えません。中央がブランカ、隣の男性がボバ。

私は現在ドイツに住んでいます。ドイツ語学校での先週のテーマはユーモアでしたが、誰がひっきりなしに小話を披露したか、当ててみてください。決して自慢するためにそれを書いている訳ではありませんけれども…。

ユーモアまで話が伸びてしまいましたが、このテキストのきっかけはセルビア人は皆明るくて、いつも笑顔を浮かべている、と先週まで思ったことです。いいえ、より正確に言うと「セルビア人は皆明るいと思っていたのですが、違うと分かった」ことがテキストを書く動機になりました。

随分長い間セルビアから離れて生活をしています。日本を始めとして他の外国でもセルビアを紹介する時に決まって「私の祖国は天才の国です。科学の天才のテスラ、スポーツの天才ジョコビッチ、映画界の天才クストリッツァ」何回もそれを繰り返して、飽きてしまいました(笑)。天才以下の人にも目を向けようと思い、フランクフルトに住んでいるセルビア人(に限らずに、元ユーゴスラヴィア人皆)を見て、たまに話をしていますが、ほとんど皆嘆いてばかりいます。経済状況を、ドイツの移民政策を、ドイツ人の国民性を…。あの明るいユーゴスラヴィア人らしくない。とは言え、本当に問題の多い現代なので、嘆いてもおかしくないです。

しかしテキストを書く動機はそれでもなく(この《隠れん坊ゲーム》はもうすぐ終わります!)、一人の特定のセルビア人女性です。同じマンションに住んでいますが、ここ一年はなぜか一度も遭遇しませんでした。ご主人と二人暮らしをしている人で、働いているご主人と違って彼女は普段家にいるはずです。前は頻繁に階段ですれ違っていました。いつも短く会話をして、またね!と言い、それぞれの道を行きました。それが去年の10月から一度も逢わないことになり、彼らのドアの前を通る度に、どうしたのだろう、と思いました。そして先週ついに遇ったのです!「久しぶりですね!」と言って、お互いに相手のことをよく思い出して、元気かしら、と気になっていたことを言い交わした。5分ぐらい立ち話をしている間に脳裏にある形のない思いがフワフワしていたのです。別れてからそのはっきりしない感じを突き止めた。そうだ!彼女は一瞬たりとも笑顔を浮かべなかった。否応なしに話している様子でもなかったのに、笑顔はありませんでした。しかも、よくよく考えたら、前も笑顔を見せてくれたことはありません。

不思議…。日本の生活が長い私にはそれはとにかく不思議です。日本人のみならず、セルビア人も知り合いがばったりと逢う時に自然と口角が上がります。よほど嫌な人ではない限り、ニコッとしますよね?普通はそうですが…例外もあるみたいです。この女性は笑顔が苦手のようです。いくらセルビア人とは言え。妹にその話をしたら、「私のマンションにもそういう一人の女性がいる」と妹が言います。でもやはり少数派です。パスポート用の写真を撮られる時の表情が普段の顔の人は不思議がられるぐらいに少ないです。セルビア人はやはり明るい国民、と言えると思います。どうぞ、セルビアに来てください!大多数の人が笑顔で歓迎してくれます。約束です!

追伸

この文章のきっかけは実際に違います。セルビアについて書くように頼まれて「長い間セルビアに住んでいないから、もう書けません」と断ってみました。私はダメなセルビア人です。里帰りをしても、母と妹、そして数人の友達の人生にしか興味はありません。セルビアの政治と経済について聞いたり読んだりしていると、悲しくなります。世の中は現在十分嘆かわしいので、私を何より悲しくするセルビアの芳しくない状況を上乗せしないことにしています。気が付いたら自然とシャットアウトしていました。

それでも芯はよく笑う人ですから(少なくともドイツ語クラスで明るさの象徴になっています!)笑えるエピソードで終わらせたいです。

20年前にミュンヘンに3年住んでいました。今回のドイツ滞在中に2回行っています。2回目は9月に行ってきたばかりです。夕べ主人とその訪問を思い出して「この間ミュンヘンに帰った時…」と文の途中で二人で爆笑しました。

言ったでしょう――ダメなセルビア人です!


【文/高橋 ブランカ】作家、翻訳家、写真家、舞台女優。旧ユーゴスラヴィア生まれ。ベオグラード大学日本語学科卒業。1995年に来日し、その後日本に帰化。日本人夫の勤務で在外生活(ベラルーシ、ドイツ、ロシア)、2009年から東京、2021年よりドイツに住む。著書は『最初の37』(2008年、ロシアで出版)、『月の物語』(2015年、セルビアで出版、クラーリェヴォ作家賞受賞)、『東京まで、セルビア』(2016年、未知谷)、『クリミア発女性専用寝台列車』(2017年、未知谷)。

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