【文/ネヴェナ・ヨヴィチッチ】
私たちの農場に秋がやってきました。冷たく短くなった日々、黄金色に染まった葉、熟した果物の香り。セルビアでは、四季の移ろいごとに異なる美しさを毎年味わうことができます。9月にあたたかく晴れた日が長く続くと、その時期を「ミホリュスコ・レト(聖ミハエルの夏)」と呼びます。秋はとくに美しい季節で、色や香り、味わいの豊かさにあふれ、多くの作家や詩人たちがその魅力に心を奪われ、作品や民謡に詠んできました。

秋は、畑や庭、そして家のまわりでの大仕事に追われる季節です。やがて訪れる寒い冬と冷たい雪に備えて、家族の一人ひとりが自分の役割を果たしています。男性はとうもろこしの収穫などの力仕事をして、女性や子どもたちは保存食の準備をします。中でも有名なのが、赤いパプリカをあぶり焼きにしてペースト状にした「アイヴァル」です。皮がはじけて甘い香りが農場に広がると、みんなが「秋が来た」と感じます。






この季節は、一年の中でもっとも実りの多い時期です。食卓には、かぼちゃ、ぶどう、りんご、なし、マルメロ、プラム、なす、キャベツ、ピーマン、じゃがいもなど、たくさんの秋の恵みが並びます。プラムからは、セルビアを代表する「シュリヴォヴィツァ」と呼ばれるラキヤ(蒸留酒)が作られます。これも秋にしかできない大切な仕事です。


家の中では、祖母のような年長者が冬に備えて羊毛の服や靴下を縫います。朝になると、祖母は火をおこして家をあたためます。朝の気温は5度から10度ほどになり、冷え込みが感じられるようになります。暖炉の火のパチパチという音とともに、台所からは鶏のスープや庭で摘んだミントティーの香りが漂います。


家畜たちも、草原で過ごす最後のあたたかい日差しを楽しんでいます。雨や霜が降り始める前のこの短い季節には、羊や豚が子を産むことも多く、家の中は新しい命の喜びに包まれます。


とうもろこしの収穫に加えて、冬のための薪の準備も秋の大切な仕事です。村では薪で暖を取ることが多いため、この時期に木を切り、積み上げて乾かしておきます。
農場の秋は、働きの季節であると同時に、感謝の季節でもあります。自然が静かに休息へ向かう中、私たちは労働の成果を享受し、日々の小さな幸せに感謝します。11月になると仕事も落ち着き、家族は家の中で過ごす時間が増えます。おしゃべりをしたり、本を読んだりしながら、焼いたかぼちゃの香りに包まれながら、静かな幸せを感じるのです。


(訳/小柳津 千早)
【文/ネヴェナ・ヨヴィチッチ】絵本作家。自身の本を通して、子どもたちに農村生活、民俗行事、伝統、家族の価値観を伝える。2024年5月にセルビアの農場の一日を描いた初の書籍『One day on the farm』を出版し、翌年にセルビア児童文学界で最も権威がある「ドシテイのペン」賞を受賞した。ほかにも、農場の四季をテーマにしたシリーズ本も刊行。書店でのワークショップを多数開催している。


