【構成/My Serbia】
セルビアは隠れたワインの名産地であることをご存じでしょうか? セルビアはフランスやイタリアと同じ緯度に位置し、昼夜の寒暖差が激しいことから、ワイン造りにとても適した国です。国内各地には家族経営のワイナリーがいくつも点在していて、代々受け継がれる伝統を守りながら高品質のワインを製造しています。
セルビアのワインを日本人にもっと知ってもらいたい。そんな思いから、今回はセルビアワインの輸入販売業務を行う株式会社Makoto Investmentsさんにインタビューを実施。同社の取締役を務めるシュミット孝子さんにワイン輸入のきっかけや現地ワイナリーとのエピソードについてお話をうかがいました(聞き手/古賀 亜希子)
実際に生産者と会い、現地と日本で味を確かめる
ーーまず、どのようなきっかけでセルビアワインを輸入するようになったのでしょうか?
弊社に在籍するサニャさんはセルビア共和国出身です。2009年に知人から「いい子がいる」と紹介されたのが彼女でした。当時、私たちは外国の企業との業務が多かったので「ぜひ何かしていただけたら」ということで彼女の入社が決まりました。
それまでセルビアという国は私たちにとって遠い国でした。けれども、サニャさんを通してぐっと身近になった。そして、彼女も含め、仕事ができるセルビア人女性が本当に多くて、どういう国なんだろう、すごいな、と興味を持ち始めました。調べたら親日国であり、日本ともゆかりが深いことが分かりました。彼女がいなかったら知りえなかったことです。
私たちの会社はコンサルティング業務も行っていて、バルカン諸国でビジネス開拓、投資先を探すという目的でセルビアを訪れたことがありました。ただ、実際にはビジネスを始める時期ではなく、時を見てということになったのですが、その時にレストランで食べたセルビアの料理とワインにスタッフ一同が感銘を受けました。「セルビアワインって日本にないよね、じゃあ輸入ビジネスからできないかな」というのがきっかけです。すべてはサニャさんから始まったんです。
ーーワインを選ぶ上で大切にしていること、「これだけは譲れない」といったものはありますか?
日本においてセルビアワインの知名度はまだありません。現地には価格の安いものから高いものまであります。安いからといってワインを持ってきて、セルビアワインはおいしくないという印象が最初についてしまうのは嫌だなと思いました。実際私たちが出合ったワインはおいしいものばかりだったのですが、その中でも本当においしいものとなると、お手頃ではなくなってしまいます。それでもいいものを届けたいというのが基準です。
必ず生産者には会っています。自分たちが現地で実際に飲んで、日本に帰国してからも現地スタッフに送ってもらった20〜30本くらいのワインを試飲します。その中で1本いいものがあればいいという感じです。現地で飲んでおいしかったけれど、なぜか日本に帰国してからはそう感じられなかったり、味が違ったりすることはありますので、必ずもう一度日本で確かめるようにしています。
10か所以上のワイナリーを周り、選出したのは4つ。半分もいかないくらいです。日本にはワイン好きで詳しい方も多いので、ありきたりのものでは見向きもされません。そこで皆さんが求めている「セルビアらしいもの」「セルビアの固有品種を使っているもの」に焦点を絞って選びました。
セルビアワインの特徴は、(保存料として)ソルビン酸を使用していないこと。日本ではナチュラルワインやビオとかお好きな方がいらっしゃいます。ソルビン酸を使用していないからビオとは言えないのですが、使用していないことは体に優しい。また、セルビアはぶどうに農薬を使っていないということもポイントになっています。
タミヤニカという固有品種を使ったワインに感動
ーーセルビアのワイナリーでの思い出や醸造家とのエピソードがあれば教えてください
私たちが訪れたワイナリーのひとつに、イヴァノヴィッチワイナリーがあります。ベオグラードから南に2時間半くらい車を走らせたところにあり、イヴァノヴィッチさんというとても体格の良い、笑顔の素敵なおじさんが経営するワイナリーです。そこでタミヤニカという固有品種80パーセントを使ったワインと出合い、これはおいしいと感動しました。実はショックなことに、イヴァノヴィッチさんは昨年突然亡くなってしまいました。彼の笑顔しか思い浮かばないくらい素晴らしい思い出があります。
セルビアのワイナリーは家族経営のところが多いのですが、イヴァノヴィッチさんのところには親日家のご子息がいらして、アニメの話で盛り上がりました。「『NARUTO -ナルト-』が好きなんだ」「いつか日本に来たい」なんて話をしたり。
ワイナリーで食べた食事がセルビア滞在中で一番おいしかったんです。ほかで食べた料理もちろんおいしかったのですが、ワインにぴったりの料理が出てきました。暖炉があり、そこでイヴァノヴィッチさんが実際に肉を焼いてくださって、焼き加減も調整してくださいました。本当においしかったです。
ーーワイナリーにレストランがついているのですか?
例えば、トプリチキという新進気鋭の大きなワイナリーは、ベオグラード市内にタパス(小皿料理)を提供するレストランを経営しています。ただ、ほとんどのワイナリーはレストランを持っていません。イヴァノヴィッチさんのワイナリーでは奥様が料理を作ってくれました。アレクサンドロヴィッチというワイナリーでも同じように歓迎してくれました。ワイナリーの中に食事をする素敵な場所があって、そこでのおもてなしが素晴らしかったです。
ですがやはり、昨年イヴァノヴィッチさんが亡くなられたということもあって、余計に特別な思いがあります。出てくる料理は、決して凝っているわけではなく、素朴なのにおいしい。奇をてらったものもありません。印象的だったのは、白ワインに合わせて出された、肉厚のしいたけにカイマック(※セルビアでよく食べられる高脂肪のクリーム)をたっぷりつけてオリーブオイルで焼いたもの。すごくシンプルなんですが、本当においしくて! 私たちが輸入しているタミヤニカにもとても合いました。
ーーセルビアとビジネスをする上で大事なことや、心掛けていることはありますか? 前例がないだけに、とても大変そうなイメージがあるのですが
よく誤解されるのですが、セルビアとのビジネスはきちんとできます。私たちにとってサニャさんがいるのは本当にラッキーなことです。最初はサニャさんが書類をそろえ、つきっきりでやってくれましたが、書類やその他のやりとりに関しても、全部英語でスムーズにいきます。
ただ、こちらは何が欲しいとか、はっきりと伝えないといけないというのはありますね。それはワインの貿易に限ったことではないですが、合わないものは合わないとはっきり伝えればわかってくれます。
ワイナリーに実際に行くと、どのワイナリーも本当に一生懸命作っていらっしゃるんです。どのワインにも思い入れがある。だからもし合わなくても、否定するようなことは決して言わないように気をつけています。それぞれ好き嫌いはありますが、それは好みですから。たまたまそれが日本人向けじゃないとか、もうちょっとオーソドックスな味のほうが人気があるとか、マーケットの事情が理由なので、選出する際には「これもすごく良かったけど、今日本ではこちらの方が売れると思うんだよね」とか、伝え方には気を遣うようにしています。
セルビアのワイナリーは、自分たちのワインが日本でどう売れているのか、どう飲まれているのか、日本に対してとても興味を持っているので、カウンターパートには正直に「これは売れると思ったけど(日本には)合わなかったみたい」と伝えています。ビジネスをする上で、現地にスタッフが1人いるということは大きいと思います。私たちは、日本のことをよく知るスラヴィッツァさんという方に、ワイナリーとの間に入ってもらってマネージしてもらっています。お互いの国のことをきちんと知っている人がビジネスに関わっていることが重要だと思います。
※後編に続く
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