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ベオグラードダービーというあり得ない試合をピッチレベルで撮影した話【セルビア蹴球旅】

【文/石川 美紀子】

セルビア蹴球旅、今回はついに、日本のJリーグの感覚では絶対にあり得ない超エキサイティングな試合をピッチレベルで撮影した話です。

セルビアスーペルリーガ24節、ベオグラードダービー(2022年2月27日)

セルビアの2大クラブであるレッドスター・ベオグラードとパルチザンのことは、これまでにも書いたとおりですが、この2大クラブが直接対決する試合は「ベオグラードダービー」と呼ばれ、セルビア国内のみならず、その過激さもあって全世界から注目されるビッグマッチです。超満員のスタジアムでは発煙筒でサポーターズシートは火の海、試合内容によっては暴徒化した観客がピッチになだれ込み、機動隊に取り押さえられて逮捕者が出るなど、日本ではあり得ない出来事が日常茶飯事的に起きることでも有名です。
2022年2月、レッドスターのホームスタジアムである通称「マラカナ」で行われたベオグラードダービーを、フォトのプレスとしてピッチレベルで撮影することに成功しました。ありえない光景の数々を写真に収めてきましたので、こちらで一挙公開したいと思います。

アレクサンダル・カタイ(Aleksandar Katai)。推しです。

マラカナのピッチレベルには今シーズン何度か撮影で入っていますが、ダービーはもちろん初めて。いつものリーグ戦に比べて報道陣の数が桁違いです。試合開始前の私は、ちょっとしたイベントに行く程度のノリで「誰を撮ろうかなー、レッドスターだったらカタイ推しだけど、パルチザンの選手は(全く興味ないし)全然わかんないやー」という程度でしたが、この軽い気持ちで天下のベオグラードダービーのピッチレベルに入ったことを、このあと猛烈に反省することになるのでした。

デヤン・スタンコヴィッチ(Dejan Stankovic)監督。さすがのオーラ。

試合開始前の選手入場に先立って、まず最初のハイライトは、両チーム監督スタッフのピッチ入り。周りのフォトグラファーたちにくっついて、私もちゃっかりベンチへ近づき、監督を撮影させていただきました。よしよし、良い写真が撮れた。周りでは20人以上の報道陣が監督の動きに合わせて波打つように移動していましたが、監督のお写真をいただいてある程度満足した私は、自分の撮影位置に戻ることにしました。

と、そのとき!
誰かが私の腕をガシっと掴んで引き留めた!
えええっ!
私のすぐ隣で、スタンコヴィッチ監督とパルチザンのスタノイェヴィッチ監督が抱擁してる!

両クラブ監督の抱擁シーン。近すぎて撮れなかった。怖かった…。

海外の監督同士が試合前に挨拶するときの、あれです。私のすぐ隣でやってた。それを大勢のフォトグラファーたちが何重にも囲み、すぐ目の前には仰々しい中継TVカメラが構えていて、セルビア国内はもちろん、全世界に向けて大々的に放映されてた。これはセルビアの意地とプライドを懸けたベオグラードダービー、もし下手な負け方をしたら、監督も選手も身辺の用心をしなければならない。試合前のヒリヒリするような緊張感を最大級にあらわす一大注目シーンに、軽いノリで登場した日本人女性がふらふらと映り込んでしまった。いやもう、その場にいた全員から殺気を感じましたよね。数ヶ月経った今でも、スタンコヴィッチ監督を見ると、あのときの恐ろしさがトラウマのように思い出されます。これがヨーロッパの真剣勝負の世界。マジで怖かった…。

パルチザン側ゴール裏。白い破片は破壊されたイスです。

手の震えが止まらないまま、試合開始。前半はパルチザンサポーター側のゴール横で撮影していたので、メインスタンドで観戦していたセルビア人の友人から、「後ろから物が飛んでくるから気をつけろよ!」とメッセージが入ったりし、さらに緊張が高まります。壊れたイスの破片などなど飛んできて、ひえぇ!となりましたが、まあさすがに私のいるところまでは届きません。大丈夫。

オヒ・オモユアンフォ(Ohi Omoijuanfo)とミルコ・イヴァニッチ(Mirko Ivanić)

前半29分、ノルウェー代表歴もあるオヒの1点目直後。緑の光線はレーザーポインターです。絶対ダメなヤツ。パルチザンのゴール裏席から照射されてます。あり得なーい。でもオヒはおかまいなしにパルチザンゴール裏を挑発してますね。隣のミルコ・イヴァニッチは、私がこれまでにピッチレベルで撮影した中で、おそらく最も評価額が高い(約10億円!?)選手です。

乱闘騒ぎ。まあでもよく見る光景です。

前半途中の乱闘騒ぎ。現地で撮影しながらだったので、なぜ乱闘になったのか状況がよくわからなかったのですが、とにかく揉めてます。でも、セルビアスーペルリーガではよくあることですし、警備もバッチリで観客がなだれ込んできたりすることもなく、それほど危険なシーンではない。このあたりから私もだんだん楽しくなってきましたよ(笑)。

サッカーの試合中です!

後半開始直後のレッドスターゴール裏。これは戦時下ですかね?というような写真ですが、れっきとしたサッカーの試合中です。でも、がっちりフェンスで囲ってありますから、ピッチレベルは全く平和。周りの顔なじみのフォトグラファーたちも、私に「さあメインイベントだよ、思う存分撮影して!」という始末。少し不謹慎画像なので非公開ですが、この炎をバックに仲良しのフォトグラファー仲間と記念撮影をしたりもしました。うん、もちろん試合中です。

お疲れさまです

稀に豪腕サポーターが投げた発煙筒がピッチ内に落ちるので、こんな感じの完全武装隊が撤去します。お疲れさまです。

パルチザン側。赤く燃やさないところがポイントです。

パルチザンゴール裏も燃やしてます。白黒がチームカラーなので、赤く燃やさないところがポイント。この後は煙幕でしばらく写真も撮れないような状態です。

Ohi Omoijuanfo(レッドスター)とSasa Zdjelar(パルチザン)
Guélor Kanga(レッドスター)とSinisa Sanicanin(パルチザン)
選手も発煙筒を燃やしちゃう

試合は2-0でレッドスターが勝ちました。サポーターズシート前で選手たちも一緒に勝利の歌を歌い、発煙筒を燃やしています。ホームでの勝利だったこともあり、試合後も大きな混乱はなく、私も近くで撮影できました。

絶対的守護神でキャプテンのミラン・ボリャン(Milan Borjan)
バイエルン下部組織育ちのネマニャ・モティカ(Nemanja Motika)
至近距離で撮影できました
こちらもお疲れさまです
これがデリエ(レッドスターサポ)の中心地

日本のJリーグではあり得ない光景の数々でしたが、これがヨーロッパサッカーの真剣勝負。選手たちはみな、文字通り命を懸けて戦っています。海外で活躍する日本人サッカー選手のインタビュー記事を読んでいると、Jリーグとはどこが違うのかという質問に選手がうんざりしたような表情を見せる場面がありますが、私もこの試合の強烈な経験で、どこがどう違うと言うより全てが違う、全く違うスポーツだとすら感じました。どちらが良い悪いという話ではありません。ぜひ現地でこの世界を体感して、違いを楽しんでいただければと思います。


【文/石川 美紀子】セルビアをはじめバルカン地域を中心に、サッカーと文化とコミュニケーションの関係をリサーチしているフィールドワーカー。もともとの専門は言語哲学だが、本業(大学教員の端くれ)のかたわらインタビュー調査でバルカン諸国をまわり、現地で活動する日本人サッカー選手を取材するようになる。主な著書に『挑戦者たちが向き合った世界と言葉—ここではないどこかでサッカーをするということ』等。最近はスポーツフォトグラファーとしても活動中。


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