【文／小柳津 千早】
ベオグラードとノヴィサドの中間にあるクルチェディンという村に、週末しか営業しないカフェがあります。
店の名前は「VIKEND」（ヴィケンド）。「週末」という意味で、営業日がそのまま店名になっています。カフェを営むのはイヴァンさんとイェレナさん夫婦で、カフェはイェレナさんの実家を改装して今年4月末にオープンしました。
カフェの内装はデザイナーでもあるイェレナさんの美的感覚が隅々まで行き渡っています。水色、黄色、白のタイルで覆われたキッチンカウンター、大きな絵が描かれた内壁は、田舎にいながらどこか都会的な雰囲気を醸し出しています。外観はおしゃれなレンガ造りで、テーブルが並べられた小さな庭には木漏れ日が差し込み、木々の間を駆け抜ける風がとても気持ちいいです。
日曜日の朝、家族みんなで訪れると、テラス席はどこもお客さんでいっぱいでした。ただ、開放的な空間のおかげで狭苦しさは感じません。芝生の上に敷かれたシートの上では、赤ちゃんの面倒を見る若い夫婦、寝転がるカップルの姿も見られます。
ゆったりと時間を楽しむお客さんとは対照的に、イヴァンさんとイェレナさんは店内を忙しく動き回ります。イヴァンさんはコーヒーを淹れながら「こんなに忙しいのは初めて。洗い物が間に合いません（笑）」と話します。
店内が落ち着いた頃、イェレナさんにカフェについて聞いてみました。
「私たちのこだわりは、まずは地元の食材をなるべく使うこと。そして居心地の良い空間を創ることです。コーヒー豆も厳選して仕入れています。果物のジュースはすべて絞り立て。ケーキは定番のポピーシードケーキ、そして週替わりでもう一種類出しています。今週はりんごのケーキです」
カフェの営業が週末だけなのは、二人がベオグラードに住み、別の仕事もしているから。カフェは副業らしいのですが、最近はお客さんが増え、休む暇もないと言います。
「週末だけの営業ですけど、近頃はとても忙しいんです。来年以降は営業を拡大することも考えていたんですけど、今日みたいに混んでいると、二人だけでやっていくのは難しいかもしれませんね（笑）」
帰り際、カウンターの上にヤギのチーズが売っていることに気づきます。イェレナさんによれば、彼女のお父さんが飼育するヤギから作られたもので、「チーズのことは父の方が詳しいので、ぜひ本人に聞いてみてください」と家の裏庭に続くドアを開けてくれました。
お父さんは私たちを笑顔で迎え入れてくれました。ヤギ小屋を見せてもらった後、3種類のチーズを紹介してくれました。
「チーズは熟成度の違いで味も食感も異なります。フレッシュタイプはモッツァレラのような優しい味わいで、柔らかい食感が特徴です。硬いシェーブルタイプのものはワインとよく合います。おすすめは「カチュカヴァリ」と呼ばれるタイプ。一番人気です」
試食させてもらうと、確かに味が違います。シェーブルタイプは塩味が強く、大人向け。「カチュカヴァリ」はクセがなく、ソフトな食感が子供にも食べやすそう。
「飼育しているヤギの数が少ないので、チーズの生産量も限られます。でもその分、愛情を込めて作っています。販売は娘たちのカフェだけ。私のチーズも少しずつですけどカフェの売りになっています」
結局、すべてのチーズを購入して帰宅。ちょうど昼ごはんの時間だったので、お父さんおすすめの「カチュカヴァリのフライ」を作ってみることに。チーズをスライスして、小麦粉、卵液、パン粉をまぶして、高温の油でさっと揚げます。口にすると、外はサクサク、中はもっちりとした食感で最高においしかったです！
この日の訪問の様子をYouTubeチャンネルで公開しています。お店の雰囲気がよく分かりますので、ぜひご覧ください！
カフェのInstagramはこちら！
【文／小柳津 千早】大学卒業後、セルビア語を学ぶためベオグラードに留学。そこで日本語学科に通う学生と出会い、無職の身でプロポーズをして見事成功。現地で約350人の前で結婚式を挙げる。帰国後、スポーツメディア関連会社に３年半、在日セルビア共和国大使館のスタッフとして10年間勤務。2021年10月中旬からセルビアに移住。YouTubeチャンネル「セルビア暮らしのオヤ」で現地の自然、文化を配信中。
