【文/石川 美紀子】
今年の夏もセルビアで活動中です。滞在の拠点にしているのはハンガリーとの国境の街スボティツァ。今回は、このスボティツァがホームタウンの女子サッカークラブ「ŽFKスパルタク・スボティツァ」で、なぜか私がチームフォトグラファーのお仕事をしている話です。
「ŽFKスパルタク・スボティツァ(スパルタク女子)」、セルビア女子A代表に召集される選手の半数以上はこのクラブの出身という超名門クラブです。現在セルビア女子スーペルリーガ14連覇中。昨シーズンもUEFA女子チャンピオンズリーグの予選に出場し、たまたまスボティツァが予選トーナメントの開催地になり、たまたま私がスボティツァにいて、たまたま私の当日の予定がキャンセルになっていたことで、チームフォトグラファーやらない?という話が転がり込んできて、それからの怒涛のような経験は以前に寄稿した通りです。
今年もチャンピオンズリーグ予選の季節がやってきましたが、今シーズンは、日本でもなでしこの活躍で盛り上がった女子W杯開催もあり、女子サッカーのカレンダーが例年とは少し違って変則的になっています。私がセルビアに到着した週末、チームはアウェイのリーグ戦で、セルビア中西部のチャチャクで前泊しているとのこと。ホテルでチームに合流し、まずは試合前ミーティングに参加しました。
この時点でチームには外国人選手が4人いて(アメリカから2人、カナダ1人、ブラジル1人)、 英語が話せるセルビア人選手が隣に座ってミーティング内容を通訳しています。ただ、今シーズン移籍してきたばかりのブラジル人選手はあまり英語がわからないようで、まだコミュニケーションに苦労している様子でした。このあたり、私の本業でもある言語コミュニケーション分野でのリサーチ内容としても興味深い事案です。
ミーティング後はチームと一緒に食事。選手は試合前なのでパスタなどの炭水化物中心のメニュー、私は監督スタッフと同じテーブルでがっつりフルコースをいただきました。お腹いっぱいになってしまって、セルビア風りんごパイが食べられなかったのが残念。
今日の試合は、Donja Trnavaという小さな町にできた新しいスタジアムだそうで、選手バスは、 たわわに実ったプラム畑の中の道をひたすら進みます。
リーグ開幕2戦目の試合はオウンゴールでまさかの先制点を奪われましたが、最終的に1-4で勝利。ただ、約10日後に迫ったチャンピオンズリーグに向けて、新戦力との連携や得点力不足など、課題も浮き彫りになりました。
ちょうどこの日の試合前、ガーナからの新加入選手がベオグラードの空港に到着したとチームに連絡がありました。ガーナ代表ストライカーで、母国では相当な人気がある選手のようです。アウェイ遠征中のスタッフが、空港に迎えに行ったドライバーと電話で話しているのを聞いていましたが、英語はよく話せるとのこと。もちろん、言葉が話せれば全て解決するわけではない、というのが私のこれまでのリサーチ結果ではありますが、9月6日にデンマークで行われるチャンピオンズリーグの初戦までに、彼女を含めた新戦力がどれぐらいフィットするかがポイントになりそうです。
UEFA女子チャンピオンズリーグ、スパルタク女子が出場するラウンド1はトーナメント形式で、 6日に「KLAKSVÍKAR ÍTRÓTTARFELAG(フェロー諸島リーグ優勝クラブ)」との試合が初戦です。勝てば9日に、「HB Køge(デンマークリーグ優勝クラブ)」と「KuPS Kuopio(フィンランドリーグ優勝クラブ)」の勝者とラウンド2出場をかけた決勝に臨みます。私も8日に開催国のデンマーク入りして、決勝当日はチームに完全帯同の予定です。
【文/石川 美紀子】セルビアをはじめバルカン地域を中心に、サッカーと文化とコミュニケーションの関係をリサーチしているフィールドワーカー。もともとの専門は言語哲学だが、本業(大学教員の端くれ)のかたわらインタビュー調査でバルカン諸国をまわり、現地で活動する日本人サッカー選手を取材するようになる。主な著書に『挑戦者たちが向き合った世界と言葉—ここではないどこかでサッカーをするということ』等。最近はスポーツフォトグラファーとしても活動中。