【文/小柳津 千早】
セルビアの春はスモモの開花とともに訪れます。冬の寒さが和らぐ3月中旬、日本の桜によく似た花が街を美しく彩ります。見た目はソメイヨシノにそっくり。花は白色とピンク色で、葉は濃い赤色です。これはベニバ(紅葉)スモモという園芸品種で、セルビア語でも「赤い葉のスモモ」(Crvenolisna šljiva)と言います。別名「日本のスモモ」(Japanska šljiva)とも呼ばれるのですが、なぜ日本なのかはっきりしません。原産がアジアだから(※ただし南東ヨーロッパという説も)、日本の桜に似ているから、といった理由が有力ですが、本当のことは分かりません。
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ベニバスモモは公園樹、街路樹として広く利用されています。樹高は約7メートル。開花期は1週間〜10日ほどで、日本の桜と同じように、華やかに咲き誇るのはほんの一瞬です。赤色の若葉は、花がすべて散るころには茶色や赤紫色に変化し、大人の雰囲気漂う樹木に様変わりします。葉は晩秋にすべて落ちます。果実は飴玉サイズで食べられますが、どちらかと言えば観賞用です。
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セルビアにはベニバスモモ以外にも多くのスモモの品種があります。有名なのは果物の蒸留酒「ラキヤ」(Rakija)に使われるスモモです。セルビアでは昔から「ツルヴェナ・ランカ」(Crvena ranka)と呼ばれる品種が親しまれています。収穫期は夏から秋にかけて。果実がジューシーで、耐寒性に優れていますが、収穫量があまりにも多いので、重みで枝が折れやすい欠点を持っています。ちなみにスモモを原料とするラキヤは「シュリヴォヴィッツァ」(Šljivovica)と言い、一番人気です。ラキヤはスモモ以外に、アンズ、マルメロ、梨、ぶどうなどからも作られます。アルコール度数は約40度と高め。果物の芳醇な香りが口の中で広がり、幅広い世代で飲まれています。
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ジェナリカ(Dženarika)またはリングロヴ(Ringlov)と呼ばれるスモモがあります。バルカン半島が原産と言われ、山間部に多く自生しています。花は白く、葉は緑色。鮮やかな黄色の果実は、生食のほか、ジャムやジュースに向いています。ただ、ほかのスモモと比べるとマイナーな印象を受けます。
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スモモはセルビア人にとても身近な存在ですが、日本でもセルビアとゆかりのある町でスモモが見られます。
山口県防府市にある向島運動公園には「セルビアの森」と呼ばれるスモモの植樹エリアがあります。同市は東京オリンピックにおけるホストタウンとして、セルビアのバレーボール女子チームを受け入れました。バレーボール以外にも、セルビア人発明家ニコラ・テスラに関する展示会が日本で初めて開催されるなど、セルビアとの縁が深い町です。セルビアとの友好の輪を広げようと、2018年に同公園に西洋スモモの若木が植えられ、その後も市内の佐波川を望む二六台にも植樹されるなど、年々増えているそうです。
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ほかにも、埼玉県富士見市にある文化の杜公園内、キラリ☆ふじみ前にも西洋スモモが植えられています。同市も東京オリンピックではホストタウンとしてセルビアのレスリングチームを受け入れました。また、セルビア西部のシャバツ市と姉妹都市提携を結んでいて(1982年に締結)、長年にわたり交流が続いています。
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両市を訪れる際は、ぜひスモモの木をご覧ください。
【文/小柳津 千早】大学卒業後、セルビア語を学ぶためベオグラードに留学。そこで日本語学科に通う学生と出会い、無職の身でプロポーズをして見事成功。現地で約350人の前で結婚式を挙げる。帰国後、スポーツメディア関連会社に3年半、在日セルビア共和国大使館のスタッフとして10年間勤務。2021年10月中旬からセルビアに移住。YouTubeチャンネル「セルビア暮らしのオヤ」で現地の自然、文化を配信中。