My Serbia(マイセルビア)

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インタビュー記事「セルビアの一番の魅力は“人”」が掲載されました【セルビア移住生活:第9回】

【文/小柳津 千早】

みなさん、こんにちは。セルビアは春の陽気が続き、澄み切った青空とさわやかな風を感じるようになりました。いちごが赤みを帯びて、1ヶ月後には、さくらんぼ、ラズベリーが旬を迎えます。

さて、先日セルビア南部ピロト市に拠点を置くインターネットメディア「Pirotske vesti」から取材依頼があり、5月9日にインタビュー記事が掲載されました。内容は、私がセルビアに興味を持ったきっかけ、こちらでの生活、セルビアと日本の違いなどです。テキストはすべてセルビア語なので、日本語に訳したものを一部公開します。

セルビアの一番の魅力は「人」

ーーセルビアに移住した理由を教えてください

私が中学生の時、“ピクシー”でお馴染みのドラガン・ストイコヴィッチ(現サッカーセルビア代表監督)がJリーグの名古屋グランパスにやって来ました。彼のプレーに魅了されて、母国のセルビアに興味を持ち始めました。大学ではセルビアの歴史を学び、セルビア語の授業も受けました。3年生になり、ほとんどの学生が就職活動を始める中、どうしても現地でセルビア語を勉強したいと強く思うようになりました。両親の理解を得て、卒業1年後にセルビアに行きました。セルビア語を勉強しながら、当時ベオグラード大学日本語学科の学生だった今の妻と知り合い、彼女の卒業後に結婚しました。彼女はラズベリーの産地で有名な南西部のアリリェという田舎町の出身で、そこでは結婚式を派手に行うのが習わし。400人近くの人の前で式を挙げました。セルビアの歌、音楽、踊りに圧倒されましたが、とても貴重な経験でした。

日本に帰国して、スポーツメディアの仕事を3年半、その後、東京のセルビア共和国大使館で10年間勤務しました。セルビアは日本では知名度が低く、もっと知ってもらうためにはどうしたらよいかとずっと考えていました。でも大使館スタッフとしてできることに制約があります。いつかセルビアに住んで、現地からセルビアの魅力を発信したいと思うようになりました。昨年10月にセルビアに移住して、今は(ベオグラードから車で1時間ぐらいの距離にある)インジヤという町に住んでいます。

ーーセルビアの好きな点、嫌いな点を教えてください

セルビアは料理がおいしく、自然もきれいですが、一番の魅力は人々にあると思います。セルビアでは知り合ってすぐに友達になれます。自分にも相手にも正直になれる、そんな関係がとても心地よいです。日本の場合、そうはいきません。日本人は親切だとよく言われますが、それは自分のコミュニティーの中だけの話です。他人に対しては見て見ぬふりをする人が多く、人付き合いを避ける傾向が強くなっています。競争を好まず、個性が生かされない教育も少し疑問です。

セルビアに住んでいて残念に思うのは、自然をリスペクトしない人がいることです。セルビア人は自分たちの国はきれいだと自画自賛しますが、そういう人の中でもゴミを捨てて、自らの手で景観を損ねているのは感心しません。清掃人がいるから問題ないと言う人がいますが、賛成できません。あとは、たばこのポイ捨てもダメですね。そこは教育の問題だと思っています。

ーーセルビア料理は好きですか? また日本料理との共通点はありますか?

セルビア料理は何でも好きです。ローストパプリカのマリネ(ペチェナ・パプリカ)やビーツの酢漬け(ツベクラ)といったサラダ、発酵ロールキャベツ(サルマ)、パプリカの肉詰め(プニェナ・パプリカ)といったメイン料理も好きです。ローストパプリカのペースト(アイヴァル)も好きで、日本にいるときに自分で作ったことがありますが、日本ではパプリカ1個が100ディナール(約110円)ぐらいするので、大量に作れませんでした。

セルビアと日本の料理で似ているところはあまりありません。日本料理は味のアクセントに砂糖を使うことが多いのですが、こちらではまずないですよね。ヨーロッパでは緑茶に砂糖が入っていますけど……。調理方法も違っていて、セルビアは煮込んだり、オーブンで焼いたりと、とても時間がかかりますが、日本はフライパンで焼いてすぐに完成する料理が多いです。あと、セルビア人は料理に対して保守的ですが、日本人はまったく逆。いろいろな国の料理を試したいし、日本人の口に合うようにアレンジすることもある。そもそも「食」にとても興味がある。日本人のSNSは料理の写真ばかりです。

ーーセルビアをPRする活動もしていますね

2020年12月に「My Serbia」という情報サイトを、セルビア人の長門ティヤナさん、写真家の古賀亜希子さんと立ち上げました。このサイトではセルビアの美術、料理、生活などを記事や動画として配信しています。さきほども言いましたが、日本ではセルビアはまだ知られていません。「セルビア=戦争」というマイナスのイメージを持つ人がいまだにいます。私はそれがとても残念で、セルビアの「今」を知ってもらうために、仲間と一緒に頑張っています。ティヤナさんは「Tiki’s kitchen」というYouTubeチャンネルでセルビア料理を披露しています。古賀さんはセルビアの美術仲間をサポートする活動をしています。私も「セルビア暮らしのオヤ」というYouTubeチャンネルを設立して、美しい自然や文化を紹介しています。

My Serbiaの活動は拡大中で、昨年は日本で初めてとなるセルビア料理のレトルト食品「ムチュカリッツァ」を販売するお手伝いをしました。ほかにも日本の若者にセルビアの魅力を知ってもらうために、大学生と連携して、PR活動を続けています。うれしいことに、My Serbiaのファンも増えています。

今はインジヤという町に住んでいます。日本企業が工場を建設中で、7月に稼働予定です。妻がそこで仕事をしていて、ピロト出身の同僚もたくさんいます。いつか行ってみたいですね。名物であるソーセージやチーズを味わってみたいです。(ピロトにある)Tigar社のゴム製の靴は日本でも買えるんですよ。セルビアでは農作業用の靴として知られていますが、日本ではレインブーツとして若い女性をターゲットに販売しています。

今住んでいる町は妻の実家アリリェに次ぐ第二の故郷になりつつあります。昨年秋に移住して、妻と2人の息子との新生活が始まりました。ここに住むヴォイヴォディナ地方の人は「平地で何もない」と言うけれど、そんなことありません。フルシュカ・ゴーラ国立自然公園、ドナウ川、農園レストラン(サラシュ)、ワイナリー、修道院、私から見ればすべてがとても魅力的です。町の人たちも温かく迎え入れてくれました。パン屋、レストラン、スーパーの店員、学校・保育園の先生や保護者、近所の人、みんなとても親切で、優しいです。今後のセルビアでの生活が充実して、とても楽しくなりそうです。

(取材:Aleksandar Ćirić)


【文/小柳津 千早(おやいず ちはや)】大学卒業後、セルビア語を学ぶためベオグラードに留学。そこで日本語学科に通う学生と出会い、無職の身でプロポーズをして見事成功。現地で約350人の前で結婚式を挙げる。帰国後、スポーツメディア関連会社に3年半、在日セルビア共和国大使館のスタッフとして10年間勤務。2021年10月中旬からセルビアに移住。YouTubeチャンネル「セルビア暮らしのオヤ」で現地の自然、文化を配信中。

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