【文/古賀 亜希子】
これまでに何度かセルビア人アーティストを日本に紹介する展覧会の企画に携わってきました。その中で「あのアーティストは今どうしていますか?」と一番よく聞かれるのがミレナ・ミロサヴリェヴィッチ(Milena Milosavljević)さんです。
2014年、ミレナさんは日本で初めて個展を開催しました。当時、彼女はドイツ・デュッセルドルフ芸術大学でイギリスを代表する彫刻家、リチャード・ディーコンのクラスに在籍していました。
日本で展示したのは炭を用いた作品。炭で描いたドローイング、あるいは様々なものを燃やして炭化したオブジェ。物質が炭化していく様を冷静に見つめる眼差しと、作品の完成度の高さに、ミレナさんが若干27歳のアーティストであることに驚きの声が多くあがりました。
今回My Serbia Galleyでは、ミレナさんから届いたその後の活動の様子を、展覧会の写真と共に紹介したいと思います。
ミレナさんは、変わらずデュッセルドルフに拠点を置き、精力的に活動を続けています。表現方法やその手法は、同じスタイルに留まることなく常に変化を続けていることがわかります。
様々な表現を試みながらも、ミレナさんの作品は、一貫して自己を取り巻く環境や毎日の生活から構成されます。彼女が経験してきた記憶、子供時代からの強烈な印象や思い出を、時には家族や親しい人を巻き込むこともあります。そしてまた、歴史、社会、政治の問題を研究します。それらは彼女がどこから来て、そして今現在どこに在るかを教えてくれます。
展覧会の写真の中でも、特に目を引く作品は「40kg. Stories」と題されたもの。顔文字のようなものが地面に転がり、泣いたり笑ったり。奇妙なこの作品は、コンクリートを流し込んで作られていて、それは現在世界中で使用されている絵文字(デジタル言語)とミレナさんが子供の頃に遊んでいた4世紀のローマの石碑の間にあるものを表現しています。
ミレナさんのこれまでの作品からも、「素材」の選択は彼女の表現において非常に重要な役割を果たしていると言えます。
そして、彼女は、どんな言語を使うかというようなことにとらわれず、西欧の文化から解放された奔放なパフォーマンスで作品を作ります。焼け焦げたものやボール紙で作った街並みなど。これらを個人的なものに構成し直し、読み替えていきます。
「作品の中で、私が興味を示しているのは、神話と現実の間にある物語であり、過去と現在、個人と歴史の間にあるもの」とミレナさんは言います。
彼女が一体どこから来たのか、そして「今在る場所」を芸術活動によって模索し続けます。
作品ページはこちら。
【文/古賀 亜希子】写真家。成城大学芸術学科を卒業後、東京綜合写真専門学校にて写真を学ぶ。国内外で作品を発表。2009年、ベオグラードでの個展開催をきっかけにセルビアが大好きになり、セルビアと日本の文化交流展覧会を多数企画。イェレナ・イェレミッチ著『イェレナと学ぶセルビア料理』の企画・翻訳に携わるなど、 最近は専らセルビア料理を研究中!