【文/小柳津 千早】
セルビアのカフェ事情
前回はセルビアコーヒーについて書きましたが、今回はセルビアのカフェ事情とコーヒーブランドについてご紹介したいと思います。
セルビアには街の至るところにコーヒーを飲める店があり、朝から晩まで人であふれかえっています。首都ベオグラードの中心地はカフェばかりです。カフェの隣にカフェがあり、その隣にカフェがまた並びます。向かい側もカフェです。こんなに多いと、行く場所を決めるのが大変そうですが、人それぞれにお気に入りのカフェがあります。選ぶ基準は、コーヒーの味やメニューの多さ、店内の雰囲気やBGMなど様々です。
セルビア人は休みの日に必ず外出します。散歩が大好きで、友人や家族とおしゃべりをしながら、公園や目抜き通りをぶらぶらと歩きます。そして必ずカフェに立ち寄り、コーヒーを注文してゆっくりと過ごします。
「カファーナ(Kafana)」とは伝統的な大衆食堂・居酒屋のことで、地元のおじいちゃんたちが集まる溜まり場です。ここで飲めるコーヒーはセルビアコーヒーのみ。エスプレッソやカプチーノといった外国からやって来たものはメニューに存在しません。常連客はコーヒーを片手に新聞を読んだり、仲間同士で他愛のないおしゃべりをしたりして、のんびりと時間を費やします。
「カフィッチ(Kafić)」は一般的なカフェを指し、老若男女問わず幅広い年齢層に愛されています。セルビア人はオープンテラスがあるカフェが大好きで、夏の暑い時期は冷房が効いた店内より屋外の席を選びます。インテリアに凝ったおしゃれな店が多く、コーヒーメニューも豊富。ここではエスプレッソやカプチーノを注文し(セルビアコーヒーがメニューにあることは珍しいです)、たまに店自慢のスウィーツも一緒に頼みます。どの店もコンセプトが明確で、居心地が良く、長居してしまいます。
セルビアのコーヒーチェーン店
セルビア生まれのコーヒーチェーン店についても触れましょう。パイオニア的存在の「グリネット・カフェ(Greenet Caffe)」は1992年に第1号店をオープン。この店は他の「カフィッチ」では見られないホイップクリーム入りのフレーバーコーヒーをいち早くメニューに取り入れたり、セルビアで初めてコーヒーの持ち帰りサービスを提供したりするなど差別化戦略が成功。「スターバックス(STARBUCKS)」がセルビアにやってくる前から「スタバなくともグリネットカフェがある」と愛好家から強い支持を得ています。
茶色と白を基調とした落ち着いた店内の「コーヒードリーム(coffeedream)」は豊富なメニューが特徴。ここに行けばすべてのコーヒーが飲めると言われるほどで、近年は新店舗のオープンが続いています。「カフェアンドファクトリー(CAFE&FACTORY)」は店内で挽きたてのコーヒーを味わえることが評判となり、若者を中心に人気が高まっています。セルビアコーヒー用に豆を挽いてもらい、持ち帰ることもできます。
外資系のコーヒーチェーン店に目を向けると、ロンドン発祥でヨーロッパ最大の「コスタコーヒー(COSTA COFFEE)」が2007年にベオグラードに初めて出店しました。順調に店舗数を増やしていきましたが、価格設定と業務管理体制の問題で徐々に衰退。2016年にはすべての店舗が閉鎖に追いやられました。
前述の「スターバックス」は2019年4月にベオグラードのショッピングセンター内にセルビア第1号店を開業し、大きな話題となりました。利用者からは「世界標準の味を味わえる」「接客がいい」とおおむね好評ですが、「値段が高い」「カフェがたくさんある中、あえて行く必要はない」との否定的な意見も聞かれます。現在は市内に3店舗を構えており、今後の動向が気になるところです。ちなみにセルビアコーヒーは取り扱っていません。
セルビアで人気のコーヒーブランド
最後に、セルビアのスーパーで購入できるコーヒーブランドをいくつかご紹介します。
「ツェー・カファ(C kafa)」は旧ユーゴスラヴィア時代から続く老舗ブランドです。1976年に誕生して以来、国民の間で広く親しまれています。シニア層からの支持が高いこと、市販のコーヒーの中で一番安く購入できることが特徴です。
「ドンカフェ(DONCAFÉ)」は2000年に誕生したブランドです。商品ラインアップが充実しており、1つの産地で作られたコーヒー豆のみを使用するシングルオリジンコーヒーを取り扱っています。最近では、コロナ禍で自宅で過ごす時間が多くなったことを受けて、コーヒー豆の宅配サービスを開始しました。
「グランド・カファ(Grand kafa)」も味(酸味・苦み・甘み)や香りの異なる商品を多くそろえています。セルビア以外にもボスニア・ヘルツェゴヴィナやマケドニアで商品を展開しています。
「ドンカフェ」と「グランド・カファ」はセルビアの2大コーヒーブランドですが、前者はイスラエルに拠点を置くストラウス・コーヒー、後者はクロアチアのアトランティック・グルーパの傘下にあります。両ブランドは豆の産地選び、ブレンドの割合、焙煎方法等で商品の差別化を図ったり、お湯を入れるだけで簡単に飲めるインスタントセルビアコーヒーを販売するなど、多様化する消費者のニーズに応えながら、新商品の開発に取り組んでいます。
セルビア人はコーヒーが好きです。何よりもコーヒーを飲む時間が大好きです。コーヒーは心を穏やかにし、平和な気持ちにさせてくれます。そして家族や友人同士の絆を深めてくれます。セルビア人はそのことをよく知っているのです。
【文/小柳津 千早(おやいず ちはや)】大学卒業後、セルビア語を学ぶためベオグラードに留学。そこで日本語学科に通う学生と出会い、無職の身でプロポーズをして見事成功。現地で約350人の前で結婚式を挙げる。帰国後、スポーツメディア関連会社に3年半、在日セルビア共和国大使館の通訳として10年間勤務。2021年10月中旬からセルビアに移住。YouTubeチャンネル「セルビア暮らしのオヤ」で現地の自然、文化を配信中。