My Serbia(マイセルビア)

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西セルビアへようこそ!【ぐるりセルビア暮らし旅・第1回】

【文・写真/酒井 貴子】

ドバル・ダン!  みなさま、はじめまして。

現在西セルビアのズラティボル(Zlatibor)という、セルビアを代表する山岳リゾート地で暮らしている、酒井貴子です。2022年2月からセルビア生活をスタートし、現在ズラティボルで観光関連の仕事に従事しています。

セルビアは日本の北海道ほどの規模で小さな国ですが、さまざまな文化的・歴史的背景から地域によって異なる特色があります。私がいる西セルビア(Zapadna Srbija)に位置するズラティボルはベオグラードから車で3時間ほど南西にくだったところにあり、周辺は長閑な牧草地が広がります。一方で近年、町の中心地は開発が進みつつあります。この周辺には観光スポットがたくさんありズラティボルはそのハブ的拠点となっているのです。またセルビア人に人気のビーチデスティネーションである隣国モンテネグロの海に都心部から向かう中間地点にもなっており、旅行途中で滞在する人も多いです。

ズラティボルには、5つ星含めた大型系ホテル、家具付きレンタルアパートメント、いかにも避暑地的なウッディなコテージからスポーツ合宿ができるような大型宿泊施設まで様々な種類の宿が揃っています。今後もさらなる開発計画が進んでいますが、観光と開発の問題はどの国においても現在切ってもきれない関係で、なかなか賛否両論あり難しいところです。持続可能な観光地としてどうバランスをとっていくか、というのが今後の課題でもあります。

世界最長のパノラマ式ゴンドラ、Gold Gondolaはズラティボルの新たなシンボル
Mt.Tornik山頂からの眺め。モンテネグロやボスニアの美しい山々も広がる

さて、周辺の観光地についてですが、ズラティボルから北に1時間ほど行くと2021年にUNWTO(国連世界観光機関)のBest Tourism Villagesの一つに選ばれたモクラ・ゴーラ(Mokra Gora)エリアがあり、観光列車のシャルガン・エイトや映画監督のエミール・クストリッツァ(Emir Kusturica)監督によって造られた映画村ツーリストリゾート“メチャヴニック(Mećavnik)”、タラ国立公園があります。

また小さな小屋が川の中央にポツンと浮かびフォトジェニックなスポットとしても知られる “ドリナの小さい家(Kućica na Drini)”なども近いです。反対に南へ向かうと、蛇のようにクネクネと蛇行するユニークな川、ウバッツ(Uvac)渓谷もあります。ここはグリフォンハゲワシがヨーロッパで2番目の生息数であることでも知られていて、雄大な自然を堪能できます。また、セルビア三大修道院の一つでセルビア一美しいとも言われる、「白い天使」のフレスコ画で知られるミレシェヴァ修道院(Mileševa Monastery)もズラティボルから車で1時間強です。

様々な観光資源が周囲にあるのですが、そんな中でも今回私が個人的にお勧めしたいのがシロゴイノ村(Sirogojno)です。ズラティボル中心地から23kmほど離れたところにある小さな村ですが、ここには“Staro Selo (古い村)  Sirogojno”と呼ばれる野外博物館があります。このズラティボルエリアで実際に人々が住んでいた家や作業場・納屋等を、1980年から移築し始め誕生したユニークな博物館です。何百年、何千年も昔からあるという古いものではありませんが、時代の変化が大きかった19世紀から戦前頃の家々を集めており、当時の山の生活や道具等貴重な生活の品々を見ることができます。日本の五箇山や白川郷の小さい版、といったところでしょうか。山岳で積雪地域であったこのあたりだからか傾斜のある屋根や、放牧が盛んな地域で当時から作られていたカイマックなどの乳製品や蜂蜜採取の道具、家の前に吊るされたフルーツや草花など、どことなく日本の片田舎の風景と類似する光景も目にできます。一つ一つの家の前には実際に住んでいた家族の名前や情報がセルビア語と英語で記載されています。実際にこの中には私のセルビア人同僚の親族の家もあり、そういった話を聞くとより親近感が湧いてくるのです。

日によってはワークショップなども行われ、実際に樽や木製品等の制作の過程を見せてくれることもありますし、教育学習として子供たち向けのプログラムなども実施しています。また、夏場はこの屋外ステージでセルビア民族音楽等のライブイベントが数日行われます。夕刻にこの光景の中で耳にする楽曲は、少し前の時代にまるでタイムトリップさせてくれます。正直なところ英語対応はまだまだですが、ちょっと古いですが日本語パンフレットもあるので、それを手に巡ることも可能です。

また、施設内には古い家を現代風に改装した宿泊施設もあり、実際にここに滞在することもできます。レストランは施設内に1軒Krčma(日本語では訳しづらいのですがTavern(宿・居酒屋))があります。私はここに足を運ぶたび、ウォルナッツ入りアップルパイを頼んでいます。素朴な味わいで、ほどよい甘さ加減がいい。シミシミとしたパイ生地も気に入っており、いつも自家製ハーブティとともにいただいています。このハーブティは売店ショップで買えるので、自分へのお土産の定番品です。また、カイマックはこの地域の名産ですが、個人的にはここのカイマックが一番好み。プロヤ(Proja)と言われるコーンブレッドやスコーンなどと一緒にいただいています。

ちなみにこちらでは事前予約で特別ランチをリクエストでき、蕎麦粉でできたパイや豆の煮込み料理、ムサカや羊の臓物に米などを入れてパイ状にして焼き上げたヤグニィエチェ サルミッツェ(Jagnjeće sarmice)などがいただけます(季節等によりメニューは若干異なります)。そして何と言っても可愛らしい花柄刺繍の付いたシャツ姿のウェイターのおじさんたちの笑顔は欠かせません。

気候がいい季節に人里離れたここでのんびり宿泊するのもユニークな体験ではないでしょうか(セルビアでは”Seoski Turizam(田舎ツーリズム)”と呼んでいます)。正直田舎でその他何もないですが、本を持ってのんびりテラス時間を楽しんだり、ぼんやりと夕日を眺めたり。セルビアの知人宅を訪れた気持ちで、ひと昔前の暮らしに想いを馳せ、のんびりと田舎時間を過ごすのも、セルビアならではの楽しみ方の一つであると思うのです。


【文・写真/酒井 貴子 Takako Sakai】上智大学比較文化学部卒業後、ラジオ制作会社・出版社にて編集業務に携わる。2010年に半年間の世界一周一人旅へ。その際に初めてセルビアの地を踏むが、その後将来セルビアで生活するとは想像もつかなかった。震災を機に観光業へ転身。日本、東京、ハワイなどデスティネーションの観光マーケティング・PR業務に10年以上携わる。ご縁があり2022年2月からセルビアへ。セルビアの観光地・ズラティボルで現在、観光業に従事。ワインエキスパート。

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