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水球の魅力(欧州選手権2026観戦記録)前編【ベオグラード雑記帳・第8回】

【文と絵/竹内 まゆ

はじめに

2026年1月10日から25日まで、男子水球の第37回欧州選手権(European Water polo Championship 2026)がベオグラードで開催された。初日に行われたセルビア対オランダ戦をベオグラード・アリーナで観た記録を中心に、大会を通じて見たこと感激したことなどを書きたい。まったくのスポーツ観戦素人、水球にわかファンによる記事で恐縮だが、セルビアで人気のある水球の面白さやセルビア人選手の活躍ぶりについて微力ながら伝えられたらと思う。

日本では水球はマイナースポーツという位置付けだが、セルビアではサッカーやバスケットボールに次いで、バレーボールやテニスと同じくらい人気のスポーツだ。そして強豪国でもある。セルビア代表チームの強さを示すには、2016年以降の3大会のオリンピック(リオデジャネイロ、東京、パリ)において連続金メダル獲得という説明だけで十分だろう。近年の水球強豪国はセルビアのほか、クロアチアやモンテネグロなどの旧ユーゴスラビアの国々に加え、ハンガリー、スペイン、ギリシャなど。これらの国に渡りクラブチームに所属する日本人の水球選手もいる。

セルビアの代表選手たち

水球セルビア代表の公式Webサイト1を見ると、Sava(サヴァ)、Dušan(ドゥシャン)、Nemanja(ネマニャ)、3人のNikola(ニコラ) 、Petar(ペタル)、Vasilije(ヴァシリエ)など15名の選手たちが掲載されている。セルビアでよく目にする人気のある男性名だが、聖人や皇帝に由来する伝統的な名前がここまで続くと、スポーツの神様も味方につけてしまいそうな勢いだ。

今回の代表選手の中には2021年の東京オリンピックや2023年の世界選手権福岡大会に出場した選手も少なくない。日本滞在時の合宿は新潟県柏崎市で行われたらしく、人口約7万5千人ほどの小都市に水球界のスーパースターたちが滞在していたと思うと、勝手に親しみが湧いてくる。

アリーナでの試合開始

さてアリーナでの観戦について話を戻そう。水球以前にスポーツ全般と無縁で生きてきたのだが、家族の提案により、強豪国が集う欧州選手権が近場で観られるせっかくの機会に、会場で試合を観てみようということになった。年始の積雪が残る1月10日、ベオグラード・アリーナに向かった。

席に着くと、初めて見る水球選手たちを目の前にしてハッとする。男子の水泳競技なので当たり前すぎることなのだが、選手のユニフォームが水泳パンツ1枚ということをすっかり忘れていた。大胸筋、三角筋、上腕二頭筋、背筋、腹筋…さまざまな筋肉が視界に入り込んでくる。心の準備ができぬままだが、屈強な男性たちが水深約2mのプールの中に勢いよく次々と飛び込んでゆく。音と水しぶきも大きい。

セルビアのチームに限らず、今回の欧州選手権に出場している選手の大半は身長190cmを超えている。例えば2024年に世界水泳連盟により世界最高選手に選出された2セルビアのスタープレーヤーDušan Mandić(ドゥシャン・マンディッチ)選手の身長は202cm、体重は105kgとある3

©Mayu Takeuchi

しばらくすると、それぞれのチームが水中で円陣を組む。競技中、水中のコートに入るのは1チーム7人(うちキーパー1人)だが、交代選手もいるので合計14人で組まれる大きな円陣だ。フォーメーションの美しさと、選手たちの真剣な眼差しに目を奪われる。

ほどなくして、プールの中央に置かれたボールを競い、双方のチームの選手たちが全速力で泳ぎ出す。先にボールに触れた方が攻撃権を得られるのだ。セルビアでは水球選手たちは”Delfini” (イルカたち)と親しみを込めて呼ばれる。水中こそが彼らの居場所であるかのようで生き生きとしていて、この瞬間はまさにイルカのようだと感じた。

照明と音楽の演出

この「スプリント」(または「スイムオフ」)と呼ばれるこの各クオーターのはじまりには、照明の演出もある。最初に会場の照明がやや落とされ、ボールがどちらのチームにあるか決まった瞬間に会場全体が明るくなる。人間が力いっぱい泳ぐ姿だけでも美しいのだが、アリーナならではの照明の演出による相乗効果で、この時点ですでに心を掴まれてしまった。

照明だけでなく音楽の演出も会場を盛り上げてゆく。選手が得点を決めた後や、休憩やタイムアウト中に音楽が流れる。多くの人が一度は聞いたことがあるような、スポーツの試合でよく使われる定番ソング(例えばQueenの「We Will Rock You」やGALAの「Freed from desire」など)に加え、近年流行したダンスミュージックからキャッチーなメロディーを拾って使うという感じだ。

第3クオーターと第4クオーターの間の休憩時間には、日本のスポーツ観戦では絶対にありえないであろう「KISS CAM(キスカム)」があった。大勢の観客の中から選ばれた男女が大きなスクリーンに映し出され、他の観客たちからキスするように囃したてられる。このときにはPrinceの「Kiss」が使われていた。後日行われた他の試合ではVAR(Video Assistant Referee、記録映像を用いた判定)が行われている間、X-ファイルのテーマが流れたりと、なかなか面白い選曲だと思う。

©Mayu Takeuchi
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みどころ

ゴール付近では選手から選手へパスが繰り広げられるのだが、相手チームの選手に動きが読まれないよう、目線と逆方向にパスを投げたり、肩を大きく振ってシュートを打つふりをしてパスを出すなど、相手ディフェンスやキーパーを欺く駆け引きがある。最大のみどころはスピード感のあるゴールシュートだろう。片手で投球する様子は、先史時代の人びとが獲物を得るのに力いっぱい槍を投げるようなプリミティブさが感じられて最高なのだ。さらに水球はサッカーと比べるならシュートの回数が多く(28秒の制限時間内にシュートを打たないと相手チームに攻撃権が移ってしまうため)、試合の展開がスピーディーで、ゴールキーパーの動きからも目が離せない。

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最初はボールを目で追いかけるように観ていたが、やがてゴール手前での選手の動きに目がとまる。選手が水中に沈められそうになる勢いで激しい攻防戦が繰り広げられているのだ。球技を観にきたつもりだが、気が付けば格闘技を観ている。あとで知ったことだが水球は「水中の格闘技」とも呼ばれる。ボールを持っている選手に対しては物理的なコンタクトを用いた荒々しいディフェンスが許可されている。ディフェンスには相手の身体を掴む、押さえつける、ボールを持った手を叩く、相手を水中に沈めることも含まれる。

素人目には、激しい身体的接触はボールを持っている選手をめぐってだけでなく、ボールを持っていない選手同士でも行われているように思えるのだが…。さらには水中で彼らがどんな動きをしているかまでは見えないため、水面下でのラフプレーもあるだろう。観客にはどこからどこまでがファウルなのか分かりにくい。

オランダ戦のゆくえ

さて試合の成り行きについてだが、第2クオーターで4対7とオランダのチームに3点差をつけられ、会場は不安に包まれていった。その後セルビア側がじわじわと巻き返し第4クオーターでは10対10に追いつくも、得点を入れても入れられ続ける。残り1分半の時点で13対12で1点リードするが、さらにオランダチームに得点を入れられ再び13対13で同点に追いつかれてしまう。この時点で残り時間は42秒。セルビア側の攻撃は失敗しボールはオランダ側に移る。残りはたった14秒。試合終了のブザーが鳴り響くなか、吸い込まれるようにボールがゴールに入った。オランダ側で湧き上がる歓声…。しかしVARの結果、試合時間が終わった時点でボールがゴールの中に入っていないということがわかり、同点引き分けに。

©Mayu Takeuchi

勝敗を決めるべく、PSO(ペナルティーシュートアウト)に移行した。各チーム5名の選手が順番にペナルティシュートを行う。張り詰めた空気のなかで、シューターとゴールキーパーが1対1で向き合う。観客として観ているだけでもプレッシャーに押しつぶされてしまいそうなのだが、選手たちは一体どんな強靭な精神を持っているのだろう。

1回目、2回目、双方のチームがそれぞれ得点を決めてゆく。ゴールラインより5mの距離から放たれるボール…。時速70kmを超えることもあるパワフルな投球を防ぐことは不可能なようにも思える。3回目、セルビアチームの23歳のゴールキーパーMilan Glušac(ミラン・グルシャッツ)選手によりオランダ側の攻撃がブロックされた。4回目はセルビア側もオランダ側も得点を入れ、最後の5回目のセルビア側のシュートにより、セルビアチームの勝利が決まった。

思いがけず『SLAM DUNK』の神回・湘北高校vs山王工業高校のようなスリリングな展開に立ち会ってしまい、すっかり水球に魅了されてしまった。この試合のあとでセルビア代表チームがどのように大会を勝ち進んでいったか、監督のこと、活躍した選手のこと、チーム全体の魅力について…書きたいことがありすぎる。かなりのボリュームになってしまいそうなので、欧州選手権2026観戦記録の後編は改めて別の記事としてまとめたいと思う。

<出典>

  1. Vaterpolo Savez Srbije 「Muška seniorska reprezentacija Srbije」
    ↩︎
  2. 駐日セルビア共和国大使館 X「セルビアの水球選手ドゥシャン・マンディッチが世界水泳連盟から今年の世界最高水球選手に選ばれました!」 ↩︎
  3. Total waterpolo「Dusan Mandic」 ↩︎

©Mayu Takeuchi
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