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プラムから生まれる、国民酒「ラキヤ」【セルビア、旬のもの図鑑・第4回】

【文/小柳津 千早

セルビアの秋を代表する果物のひとつが、プラムです。セルビア語で「シュリーヴァ(Šljiva)」と言います。旬を迎えるのは8月下旬から9月ごろ。市場やスーパーにたくさん並ぶほか、田舎では庭や畑に実った果実を収穫する光景があちこちで見られます。

プラムはそのまま食べるのはもちろん、ジャムにして保存することもあります。そして、セルビアならではの使い道といえば、伝統的なお酒「ラキヤ(Rakija)」です。

ラキヤとは、果物を発酵・蒸留して造るお酒(フルーツブランデー)の総称です。アプリコットや洋梨、マルメロなど、さまざまな果実が使われますが、最も代表的なのがプラム。これを原料にしたものは「シュリヴォヴィツァ(Šljivovica)」と呼ばれています。

セルビアの田舎では、今も家庭でシュリヴォヴィツァが造られています。

まず、収穫した実を大きなプラスチック樽に入れ、しばらく自然発酵させます。果実に含まれる糖分がアルコールへと変わったところで、「カザン(kazan)」と呼ばれる伝統的な蒸留器の出番です。

発酵したプラムの「もろみ」をカザンに入れて加熱すると、アルコールを含んだ蒸気が発生します。それを冷やして再び液体に戻すのが蒸留です。一度蒸留した液体をさらに蒸留することで、アルコール度数を高めることもできます。一般的なシュリヴォヴィツァのアルコール度数は40度前後です。

蒸留したばかりのシュリヴォヴィツァは無色透明ですが、オークなどの木樽で熟成させると、次第に美しい琥珀色へと変わっていきます。

ラキヤ造りに使われる蒸留器「カザン」の仕組み(AI生成イラスト)
年季の入った蒸留器。移動しやすいよう、足元にはタイヤが取り付けられています。

こうしたシュリヴォヴィツァ造りは、単なる酒造りではなく、セルビアの農村に受け継がれてきた暮らしの文化でもあります。2022年には、その製造や利用にまつわる伝統や知識がユネスコの無形文化遺産に登録されました。

ラキヤは、人が集まる場にも欠かせない存在です。自宅にお客さんを招いたときや、誕生日、結婚式などのお祝いの席では、よく振る舞われます。小さなグラスに注ぎ、食前に一杯飲むこともあれば、料理を囲みながらゆっくり味わうこともあります。また、寒い冬には砂糖などを加え、温めて楽しむのも定番です。

さらに興味深いのが、ラキヤがお酒としてだけでなく、昔ながらの民間療法にも使われてきたことです。喉が痛いときなどには、ラキヤを染み込ませた布を首に巻くという方法もあります。こうしたラキヤの伝統的な利用法は、今もセルビアの暮らしの中に残っています。

セルビアのプラムは、秋の味覚であると同時に、この国の暮らしや文化に深く根付いた果物なのです。


【文/小柳津 千早】大学卒業後、セルビア語を学ぶためベオグラードに留学。そこで日本語学科に通う女性と出会い、無職の身でプロポーズをして見事成功。現地で約350人の前で結婚式を挙げる。帰国後、スポーツメディア関連会社に3年半、在日セルビア共和国大使館のスタッフとして10年間勤務。2021年10月中旬からセルビアに移住し、現在は通訳の仕事のため単身で一時帰国中。YouTubeチャンネル「セルビア暮らしのオヤ」で現地の自然、文化を配信していましたが、今は日本にいるため更新されていません(泣)。