【文/石川 美紀子】
カタールで開催されているFIFAワールドカップ、盛り上がってますね。ワールドカップへの世間の注目にかこつけて(笑?)、ここでは今年の夏にセルビアで、突如として女子サッカーの魅力に目覚め、なんと最終的に女子ワールドカップ欧州予選で取材できてしまった話をしたいと思います。
女子サッカーと言えば、日本では「なでしこジャパン」が2011年にワールドカップで優勝し、現在も世界ランキング11位(2022年10月FIFA発表)で強豪国のひとつですが、セルビアは世界ランキング36位、ワールドカップへの出場歴はまだありません。2022年6月にはセルビア対日本の国際親善試合があり、結果は0-5で「なでしこジャパン」の勝利でした。
セルビア代表選手はイングランドやドイツなど西欧の強豪クラブでプレーしていることが多く、セルビアの国内リーグはそれほどレベルは高くないのですが、セルビア北端のスボティツァがホームタウンのスパルタク(ŽFK Spartak Subotica)は、国内リーグで毎年優勝し続け、UEFA女子チャンピオンズリーグにも出場する有名クラブです。国内から選ばれる代表選手のほとんどはスパルタクの所属、海外でプレーしている選手もこのクラブの出身者が何人もいて、セルビア女子サッカー界を牽引する存在でもあります。私は年2回のセルビア滞在時、スボティツァでスパルタクの男子チームに所属する志村謄選手の取材をしていることもあり、女子チームのフォトグラファーを探していた関係者から声をかけてもらって、8月に開催されたチャンピオンズリーグ(予選)の撮影を担当することになりました。
女子とはいえ、そして予選とはいえ、憧れのUEFAチャンピオンズリーグ。メディア関係者も全員、UEFA公式ビブス着用です。私自身はもちろん初めての経験でしたし、そもそも女子サッカーを撮影するのもこの日が初めて、さすがに緊張しましたが、男子チームの取材で撮り慣れたスタジアムだったのは救いでした。ナイターで映える写真が撮れるスタジアムで、腕が鳴ります!笑
結果は、予選トーナメントの決勝でノルウェーのクラブを相手に1-3で敗退。チャンピオンズリーグ本戦出場はかないませんでしたが、休む間もなく2022/23シーズンのセルビア女子スーペルリーガが開幕。リーグ戦もチームフォトグラファーとして撮ってほしいと頼まれて、どっぷり女子サッカー生活のスタートです。
当然のことですが、いまセルビアサッカー界で撮影しているアジア系の女性フォトグラファーは私一人なので、どこへ行ってもあっという間に顔を覚えられてしまいます(笑)。ここでもすぐに、私がカメラ機材一式を担いでスタジアムに登場すると、選手たちから「私を綺麗に撮ってね!」と気さくに声をかけられ、試合の後は「早く写真送って!」とじゃんじゃんメッセージが届くという、フォトグラファーとしてとてもやりがいある時間を過ごしました。そんな中、9月初めにFIFA女子ワールドカップの欧州予選がセルビアホームで開催されるとのこと。この流れ、ぜったいに乗らなくては!
取材申請など関係者の方に何もかもサポートしていただいて、女子とはいえ、欧州予選とはいえ、この私がワールドカップをピッチレベルで撮影することになりました!まったく人生はアメイジングですことよ!
女子ワールドカップの欧州予選、セルビアは2022年4月のドイツ戦で劇的な勝利を収めており、今回のポルトガル戦は勝てば初のワールドカップ出場へ大きく近づくという、重要な一戦です。代表に招集されたスパルタクの選手たちに、「私も試合を撮りに行くからがんばってね!」とセルビア語でメッセージを送ると、「それは素敵!」「いつもサポートしてくれてありがとう!」などなど返事が。いやもう、ぜったい勝ちたい!ぜったいワールカップに行きたい!
前半6分、スパルタク所属Frajtović選手のフリーキックが直接ゴールとなり、セルビア先制。ホームの後押しもあり、勝利への期待が高まります。
しかし先制点の後はミスも目立ち、前半終了間際、立て続けに2失点してそのまま1-2で敗戦。この結果でワールドカップへの出場はかなり厳しくなり、欧州予選終了とともに予選敗退となってしまいました。
こうして、2023年にオーストラリアとニュージーランドで開催される女子ワールドカップへの出場はかないませんでしたが、初めて女子サッカーの世界に触れて、普段は人懐っこい彼女たちがピッチ上で真剣勝負をする姿にすっかり魅了されてしまいました。ここに応援に来ていたたくさんのサッカー少女たちがすくすく成長し、いつかワールドカップで「なでしこジャパン」と対戦してくれたら、素敵だなと思っています。
ちなみに、この日に撮影した画像がセルビアサッカー協会公式のSNSに採用され、欧州予選最終戦となったイスラエル戦の告知画像としてあちこちに公開されちゃいまして!たくさんの人に見てもらったという意味では、間違いなく、私にとって今年の代表作となりました!なんとまあアメイジング!
女性フォトグラファーにとって女子サッカーの現場は仕事がしやすい環境でもありましたし、次の4年後に向けて、今後もセルビア女子サッカー界の取材は続けていきたいと思っています。
セルビア語では、「サッカーをする」も「踊る」も、どちらも同じ動詞 ”igrati” を使います。文字通り、踊るようにプレーする美しい選手たちの活躍に、みなさんも是非ご注目ください!
【文/石川 美紀子】セルビアをはじめバルカン地域を中心に、サッカーと文化とコミュニケーションの関係をリサーチしているフィールドワーカー。もともとの専門は言語哲学だが、本業(大学教員の端くれ)のかたわらインタビュー調査でバルカン諸国をまわり、現地で活動する日本人サッカー選手を取材するようになる。主な著書に『挑戦者たちが向き合った世界と言葉—ここではないどこかでサッカーをするということ』等。最近はスポーツフォトグラファーとしても活動中。