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セルビアの森でクワガタを探してみた【セルビア移住生活:第10回】

【文/小柳津 千早】

日本に住んでいたとき、長男を連れてクワガタ採集によく出かけていました。捕まえたクワガタを家に持ち帰り、2週間ぐらい飼育して、自然に返すというようなことをしていました。昨年秋にセルビア暮らしを始めてからは「セルビアに生息するクワガタを見つけてみたい」と思うようになりました。

先日、友人のガーガから「みんなで山の中を散歩しよう」と誘われたのをきっかけに、この日のクワガタ探しを決意しました。6歳になった長男も久しぶりのクワガタ採りに興奮を抑えきれません。向かった場所はセルビア北部にあるフルシュカ・ゴーラ国立公園にあるハイキングコース。現場に到着して、山中のコースを歩いていくと、クワガタが好きそうなナラの木がたくさん自生しています。

「これは期待できるかも!」と思ったのですが、よく見ると樹液が出ている木は皆無で、樹皮がとてもきれいです。日本で何度も見てきた、昆虫たちが樹液に集まる光景はここでは期待できそうもありません。

しかし、しばらく歩いていると足元で何かを発見!

クワガタの死骸です。鳥か小動物の仕業でしょうか。これはヨーロッパミヤマクワガタといい、日本のミヤマクワガタと比べると頭が大きく、体表が赤く、細かい毛がありません。ぱっと見た感じは日本のノコギリクワガタのようです。こういう死骸を見つけた場合、近くの木にクワガタが潜んでいる可能性があります。期待に胸をふくらませて探してみますが、残念ながら見つけることができませんでした。

その後も周囲の木々を観察しながら歩いていきますが、そう簡単には見つかりません。長男の体力を考え、来た道を戻っていると前方に大きな黒い虫が飛んでいます。手ではたき落として、捕まえたのは小型のヨーロッパミヤマクワガタでした。 生きているクワガタを見つけた喜びに浸っていると、今度はナラの木にとまっているヨーロッパミヤマクワガタのメスを発見。その後ももう一匹メスを見つけることができました。

ヨーロッパミヤマクワガタのオス(下)とメス

ここが日本ならすぐに虫かごに入れて、家に持ち帰るかもしれませんが、セルビアではクワガタは保護対象種。飼育することはもちろん、生息地から移動することも禁じられています。長男は「家で飼いたい!」と主張しますが、そうはいきません。事情をしっかりと説明して、納得してもらいました。

目的を達成した後は、疲れた体を癒すべくハイキングコースの入口にあるカフェで休憩することにしました。自然を眺めながらコーヒーを飲んでいると、目の前の原っぱで遊んでいた長男が興奮した様子ではこちらに走ってきます。「また見つけた、クワガタ! メスだけど」。手に持っていたのは先ほど見つけたヨーロッパミヤマクワガタのメス。草の中を歩いていたようです。

その数分後には「太っているメスを見つけた!」との連絡が。今度はクワガタではなくて、カブトムシのメスでした。調べてみるとヨーロッパサイカブトというカブトムシのメスのようです。頭部が少しへんこんでいるのが特徴です。

ヨーロッパサイカブトのメス

「どこで見つけたの?」と聞くと、「子どもたちが木の棒で突っついていじめていたから、僕が取り上げて助けたんだ」と教えてくれました。実はセルビア人は一般的に虫が嫌いです。私の妻はセルビア人ですが、日本で初めてクワガタを見たときに「ゴキブリにしか見えない」と言い、家で飼うことを頑なに拒否しました(その後、説得して何とか許可を得ましたが)。セルビア人にとって「虫は害虫」であり、農作物に被害をもたらすもの、不衛生なもの、不気味なものです。だから虫を触ることができません。当然、採集することもありません。カブトムシのメスを手で拾い上げた長男の行動は、セルビアの子どもたちには異様に映ったに違いありません。

対照的に長男は「カブトムシのオスも見つけたい」と、ここにきて欲を出してきます。これまでの状況から推測すると、木よりもなぜか地面を歩いている確率の方が高いことが分かっています。原っぱで一緒に探していると、いました。またしてもミヤマクワガタのメスです。 

続いて、原っぱの隅に朽木が横たわっているのを見つけました。長男は「この木をどかすといるかも」とぽつり。「まさか、ダンゴムシでもないし」と言いながら、木を動かすと、そこになんと小さなクワガタが4、5匹隠れていたのです。これまでのミヤマクワガタとはあきらかに形が違います。日本のコクワガタのようだけど、もっと小さい。調べてみると、ヨーロッパオオクワガタということが分かりました。確かにアゴの形がオオクワガタそっくりです。でも、だいぶ小さい。3センチぐらいでしょうか。それによく動き回る。オオクワガタと聞くと希少価値がありそうですが、セルビアでは普通に見られる種類のようです。

ヨーロッパオオクワガタ。歩き回るため写真がブレちゃいました。

終わってみれば、クワガタをたくさん見つけることができて大満足の一日となりました。残念ながらカブトムシのオスを探すことはできませんでしたが、いつかお目にかかる日を楽しみにしたいと思います。


【文/小柳津 千早(おやいず ちはや)】大学卒業後、セルビア語を学ぶためベオグラードに留学。そこで日本語学科に通う学生と出会い、無職の身でプロポーズをして見事成功。現地で約350人の前で結婚式を挙げる。帰国後、スポーツメディア関連会社に3年半、在日セルビア共和国大使館のスタッフとして10年間勤務。2021年10月中旬からセルビアに移住。YouTubeチャンネル「セルビア暮らしのオヤ」で現地の自然、文化を配信中。

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