【文/小柳津 千早】
長男は9月1日から小学校一年生になりました。一年前に通い始めたプレスクールという名の就学前教育が6月に終わり、この秋から晴れて現地の小学校に入学。今まで慣れ親しんだ友だちは6つのクラスに振り分けられ、新しい先生や仲間との学校生活が始まりました。
入学から3週間が経過したので、今回は一年生の学校生活と授業について分かったことをご紹介したいと思います。
日本とはかなり異なる学校生活
まずは学校での生活について。長男が通う学校はシフト制を組んでいて、学年ごとに午前授業(朝7時30分開始)と午後授業(午後13時開始)の2つに分かれています。このシフトは1週間で交代し、今週は午前から、来週は午後からといった具合に入れ替わります。
授業は1コマ45分。休憩時間は15分、または5分です。1時間目終了時の休憩が食事時間にあてられ、この時に、家から持ってきた軽食を口にしたり、学校から支給される菓子パンを食べたりします(希望者のみ。有料)。我が家でも学校支給のパンをお願いしていますが、チョコレートやジャムが入ったものが多く、健康面を考えるとあまり依存したくないというのが正直な感想です。ですから、おにぎりやサンドイッチを持たせることもあります(支給されるパンは持ち帰り可)。中にはビスケットやポテトチップスなどのお菓子を持ってくる子もいます。飲み物は皆、ペットボトルの水を持参していますが、長男は水筒に麦茶を入れて持っていきます。給食は今のところ提供されていません。掃除はなく、すべて清掃員任せです。
子供の送り迎えは保護者同伴でOK。集団による登下校はなく、学校に慣れたら友だち同士、または1人で通学も可能です。
服装は自由です。ランドセルはありませんが、教科書がたくさん入る大きなリュックサックを各自購入します。帽子も名札もありません。日本の学校のように道具箱も支給されません。はさみ、のり、色鉛筆、絵の具などの文房具や画材はすべて自分たちで用意します。
最初はキリル文字を練習
次は授業について。週の時間割は以下の通りです。9月のみ授業は3時間目で終わり、10月からフルタイムに移行します。
月 | 火 | 水 | 木 | 金 | |
1 | 算数 | セルビア語 | 算数 | 宗教 | セルビア語 |
2 | セルビア語 | 体育 | セルビア語 | ドイツ語 | 体育 |
3 | 生活 | 算数 | 体育 | セルビア語 | 算数 |
4 | 音楽 | 図画工作 | 生活 | 算数 | デジタル社会 |
5 | ドイツ語 | 企画 | 補習授業 | 校外活動 |
セルビア語の授業はまず、国の公式の文字であるキリル文字の勉強から始まります(ラテン文字は二年生から)。文字は全部で30個。ひらがな、カタカナ、漢字がある日本語と比べれば、ずいぶん少ないですが、それでも最初は苦労します。街にはキリル文字とラテン文字の両方があふれているので混乱しやすいです。例えば、キリル文字のCはラテン文字のSにあたり、”ス”と読みます。長男が街の看板に書かれているCを見て「お父さん、あれは”ス”と読むんだよね」と言っても、実はラテン文字というケースがあります。一年生の後半ではキリル文字の筆記体も勉強します。
算数はたし算、ひき算が基本ですが、その前に物の位置、動き、大きさ、形などを覚え、思考回路を開拓します。
生活の授業は、身の回りで起きている事象を観察します。生活習慣、文化、自然、動物などです。ここでは道徳も一緒に学びます。例えば、「私は健康的な環境で生きる権利がある。一方でその環境を守る責任もある」「私は相手に自由に質問して、自分が思っていることを伝える権利がある。一方で相手が何を思い、何を伝えたくて、何をしたいのかを聞く責任がある」「私は誰からも傷つけれらない権利がある。一方で誰も傷つけてはいけない責任がある」など、生きていく上で何が大切かを学びます。
外国語も一年生の必修科目です。長男の学校では英語とドイツ語のどちらかを選ぶはずだったのですが、なぜか長男のクラスは強制的にドイツ語を学ぶことになりました(このため英語は五年生から学習)。突然の決定に一部の保護者は怒っていましたが、今ではしょうがなく受け入れてるようです。長男に限っていえば、日本語(ひらがな、カタカナ、漢字)、セルビア語(キリル文字、ラテン文字、それぞれの筆記体)、ドイツ語に加え、プライベートで英語のクラスにも通っているので、どのように勉強するのがよいのか、もうお手上げ状態です。
宗教の授業は公民教育との選択科目です。ただ、長男のクラスは全員が宗教を選んだようです。セルビアにはセルビア正教を信仰する人が圧倒的多数ですが、北部にはカトリック、南部にはイスラム教の信者もいます。授業はどうしてもセルビア正教の歴史・習慣が中心になりますが、世界には多種多様な民族・宗教・文化が混在していることも学びます。
体育は追いかけっこや野外遊びで体を動かします。球技もあり、屋外ならサッカー、屋内ならバスケットやバレーなど。ちなみにセルビアの学校にはプールはないので、水泳の授業はありません。
デジタル社会、音楽、図画工作などの授業はまだ始まっていません。ただ、教科書を見る限り、デジタル社会は普段の生活に欠かせないコンピューター、携帯電話、家電製品等との付き合い方を学ぶようです。音楽は歌、リズム、楽器の使い方など。セルビアの子どもの歌は、これでもかというぐらい韻を踏むので、テンポがとても良く、覚えやすいです。図画工作は、世の中にあふれる絵、写真、物を観察。その構造を知り、想像力を養います。
企画、補習授業、校外活動というのはまだよくわかりません。妻によれば、企画は何か物事を決めて話し合う場を設ける時間、補習はその名の通り、遅れている授業にあてられ、校外学習は散歩、屋外での自然観察などです。
クラスは約20人。担任の先生は四年生になるまで変わりません(言い忘れましたが小学校は8年制です)。授業は外国語以外は基本的に担任の先生がすべて受け持ちます。宿題は毎日あり、先生の厳しいチェックが入ります。先生からの連絡事項は、スマホのメッセージアプリで保護者グループが作成されるので、そこでシェアされます。
長男の学校生活は始まったばかりですが、毎日楽しく通っています。食事の時間に海苔が巻かれたおにぎりや芋けんぴを持っていて、友だちから不思議がられたという、おもしろエピソードも話してくれました。私自身も、長男がセルビアの学校でどのように成長するのかとても楽しみです。
【文/小柳津 千早(おやいず ちはや)】大学卒業後、セルビア語を学ぶためベオグラードに留学。そこで日本語学科に通う学生と出会い、無職の身でプロポーズをして見事成功。現地で約350人の前で結婚式を挙げる。帰国後、スポーツメディア関連会社に3年半、在日セルビア共和国大使館のスタッフとして10年間勤務。2021年10月中旬からセルビアに移住。YouTubeチャンネル「セルビア暮らしのオヤ」で現地の自然、文化を配信中。