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セルビアのワインツーリズム・前半【ぐるりセルビア暮らし旅・第2回】

【文・写真/酒井 貴子】

セルビアというとラキヤ(フルーツブランデー)という独自のお酒が最初に浮かぶ人が多いかと思いますが、ワイン生産国でもあり、一部のエリアを除いて様々な地域にワイナリーが点在しています(2021年時の公式登録済みワインメーカーは430、年間3,000万リットルのワインを生産)。

セルビアのワイン造りの歴史は長く、ローマ帝国時代にブドウの栽培が盛んになったと言われていますが、ネマニッチ朝時代に大きく経済的発展を遂げたとされています。19世紀後半には、ヨーロッパ全土に広まったフィロキセラ(ブドウネアブラムシ)の被害の影響もあり、ブドウ畑は荒廃し多くの土着品種が失われてしまいました。その後、ユーゴスラビア時代にはブドウ栽培は最盛期をむかえ、世界の十大産地に選ばれた時もあったようですが、ユーゴスラビア解体後に生産及び輸出の量は減少してしまいます。海外へのワイン輸出量は少なく、その大半が近隣国向けであるようです。そのため、なかなか日本含め国外でセルビアワインに出会うことは稀です。家族経営や小規模のワイン生産者が多く、生産量が少ないことも理由の一つなのではないでしょうか。

ぶどうの品種としては、フローラルなアロマを感じるマスカット系の白ブドウ、Tamijanika(タミヤニカ)や赤ブドウではチェリーやブラックベリーが香るProkupac(プロクパッツ)などの土着品種があります。また、セルビア北部のスレムスキ・カルロヴツィのBermet(ベルメット・ハーブやスパイスを20種類以上も使用した甘口フレーバードワイン)は、1912年に沈没したタイタニック号のワインリストにも掲載があったとされ知られています。現在では、それ以外にもシャルドネ、ソーヴィニヨン・ブラン、マスカット、カベルネ、メルロー、ピノ・ノワール等のフランス品種やドイツ系リースリングやトラミネール品種などを栽培しているところも多くあります。泡(スパークリングワイン)を生産しているところが少ないのに驚きましたが、その代わり、ロゼワインの生産者は結構おり、蒸し暑いセルビアの夏に冷やしていただくロゼがおすすめです。ロゼワインの種類も豊富で、品種ブレンドなどもユニークなものもあり、料理にも合わせやすいロゼを私も自宅でよく飲んでいます。また、白ワインを炭酸水で薄めて飲む、シュプリッツエルもセルビア人の定番です。

私が2年近い滞在で巡ってきたワイナリーは16軒ですが、大手のところももちろんありつつも、やはり家族経営で親族からワイン畑を受け継いでいるところが多くありました。ワイン醸造の歴史は昔からあるものの、ユーゴスラビア時代は、質よりも量を重視したものであり、生産品種にも制限があったと聞きます。そのため、その時期に失われた土着品種もあったようです。その後、内戦もあり、歴史的に落ち着いた2000年代に、各自のこだわりを持ち、新規ワイン事業展開を始めたところが多いです。そのため、ワイナリーとしては歴史がまだ浅く、全体的にコストパフォーマンスのよい早飲みのワインが多いのが現状ではあります。一方でユニークな造り手や、土着品種にこだわるところなども出てき、家族経営も世代交代が行われている中で、熟成したワインなども出てきました。また、最近ではナチュラルワインやオレンジワインなども手掛けるワイナリーなども出てきています。

現在では、セルビア政府観光局、各観光協会ともにさまざまな形で、ワインツーリズムにも力を入れています。ワインツーリズムにもさまざまな形があり、ワインテイスティングがもちろん主ですが、場所によっては、醸造所や畑見学なども行っています(リクエストベースのところもある)。セルビアのワインテイスティングで何と言っても嬉しいのは、その地域ごとのチーズやプルシュータと呼ばれる生ハム・燻製ハム、ドライフルーツなどを一緒に味わえることです。また、場所によってはぶどう畑が広がるオープンビューの絶景レストランを併設していたり、事前予約制で特別コースとのペアリングの食事を楽しめるワイナリーなどもあります。昨今は、グランピングとワインを楽しめる施設や宿を併設したところもあり、のんびりとワインを片手に滞在を楽しむこともできます。前述した通り、家族経営の小規模なところも多いのですが、まるで友人宅を訪ねているようなアットホームな雰囲気で、ワイン造りに対する思いを熱く語ってくれる、この「親密さ」が他のワイン生産国のワイナリー訪問とは異なる、セルビアの魅力の一つだと感じています。

2019年に発足したThe Association of Winemakers and Wine growers of Serbiaのウェブサイトでは12のワイン地域が紹介されています。セルビアに観光客がきて、個人でワイナリーに足を運ぶのはなかなかハードルが高いですが、その一番の問題は、足。交通の便が悪いのが正直なところ、ワインツーリズムだけでなくそのほかの観光全体においても課題の一つです。個人で足を運ぶとなると、バスが中心となります(Novi SadやFruska Goraは電車も可)。時間に限りがある場合はやはりベオグラード発のワイナリーを巡るツアーに参加するのが一番簡単な方法ではあります。

2010年からは「Beo Wine Fair」という国際ワインフェアがベオグラードで開催され、2022年からは「Wine Vision by Open Balkan」がスタートするなど、近年ワイン市場は盛り上がりを見せつつあります。都心部以外でも様々なワイン産地で象徴的なワインイベントも開催されています。残念ながら私が暮らしているZlatiborエリアは山地のため、ワイン造りには適しておらずワイナリーはないのですが、観光地であり、夏から秋にかけてホテルでのワイン試飲イベントなども複数行われています。こういったワインイベントのタイミングで足を運んでみるのもよいかもしれません。また旅行博やフードフェアでもワイナリーの出展もあり、ワインテイスティング体験ができますよ。

次回の後半では、実際に私が巡ったワイナリー体験を幾つかご紹介できたらと思います!


【文・写真/酒井 貴子 Takako Sakai】上智大学比較文化学部卒業後、ラジオ制作会社・出版社にて編集業務に携わる。2010年に半年間の世界一周一人旅へ。その際に初めてセルビアの地を踏むが、その後将来セルビアで生活するとは想像もつかなかった。震災を機に観光業へ転身。日本、東京、ハワイなどデスティネーションの観光マーケティング・PR業務に10年以上携わる。ご縁があり2022年2月からセルビアへ。セルビアの観光地・ズラティボルで現在、観光業に従事。ワインエキスパート。

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